届かなかった最後のLINE「無事でいてくれマナりこ」…池袋暴走事故1年、松永さんの思い「免許返納で事故は減らせる」

井上真典 (2019年4月15日付 東京新聞朝刊)
子育て世代がつながる

2019年4月19日正午、亡くなった松永真菜さんはLINEで夫と最後の通話をしていた。約20分後、事故に遭った

 東京・池袋で高齢者が運転する乗用車が暴走し、松永真菜(まな)さん=当時(31)=と長女莉子(りこ)ちゃん=同(3つ)=が亡くなった事故から19日で1年となる。最愛の妻と娘を失った夫(33)は事故以来、免許返納を呼び掛け、国には高齢運転者による事故防止を求めてきた。あの日の悲しみを胸に「2人の命が無駄にならないように、これからも声を上げていきたい」と語る。

事故直前の昼休み、2人とテレビ電話「定時で帰る?」

 1年前の4月19日、いつもと変わらない平日の昼休み。松永さんは豊島区の南池袋公園にいる2人と、日課のテレビ電話を楽しんでいた。

 「きょう、ていじー?」。お気に入りの滑り台で遊んでいた莉子ちゃんが電話口に駆け寄ってきた。「意味は分かっていなかったと思うんですけど、定時イコール私が早く帰ってくるって覚えていたんです」。お互いが最後になるとは知らず、1分46秒の通話を終え、電話を切った。

2時間後に警察から電話 祈る思いで送ったメッセージ

 2時間後、携帯電話が震えた。「落ち着いて聞いてください」と前置きした警察官は、妻子が交通事故に巻き込まれたことを伝えた。2人の容体が分からないまま、山手線に乗り込んだ。「無事でいてくれマナりこ」。祈る思いで真菜さんにLINE(ライン)のメッセージを送った。

 パニックになる中、ニュース速報の「3歳女児と30代の女性が心肺停止」の文字が飛び込んできた。2人のことと確信し、座り込んだ。突然の別れで一人となった。何度も「死にたい」と思ったが、2人の死を無駄にしないため自分にできることを考えた。事故から5日後の告別式の後、記者会見に臨み「少しでも運転に不安がある人は運転しないという選択肢を考えてほしい」と涙ながらに訴えた。

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2019年4月24日の会見で、亡くなった松永真菜さんと長女・莉子ちゃんの遺影を前に、事故への思いを語った松永さん=東京都千代田区で

事故後に自主返納急増 政府は技能検査導入も検討

 運転免許自主返納数は大幅に増えた。警察庁によると昨年1年間は前年比で4割増の約60万人と過去最多を記録。松永さんは「一人一人のご決断はすごく重たいものだったと思う」と話す。「関東交通犯罪遺族の会(あいの会)」の一員として、国に対し高齢運転者の事故防止や地方での公共交通機関の拡充などの要望書を提出。政府は現在、一定の違反歴のある75歳以上の人を対象に、運転技能検査(実車試験)を課す制度改正を目指している。

 松永さんは「大きな前進」と期待する一方で、試験を何度も受けられる仕組みに不安も感じている。「1回で合格する人と10回目で合格する人。同じように安全を担保できますか。事故はもっと減らせるはずです」。悲劇を繰り返さないため、歩みを続ける。

事故1年を前に仏壇に手を合わせる真菜さんの夫=東京都豊島区で(松崎浩一撮影)

池袋暴走事故

 2019年4月19日、東京都豊島区東池袋の都道で、旧通産省工業技術院の飯塚幸三元院長(88)が運転する乗用車が赤信号を無視して交差点に進入し、主婦の松永真菜さん=当時(31)=と長女莉子ちゃん=同(3つ)=がはねられて死亡した他、飯塚元院長を含む男女10人が負傷した。東京地検は今年2月、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪で飯塚元院長を在宅起訴した。

 

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