〈パリ特派員の子育て通信〉新学期! 赤ちゃん言葉はもう卒業、アルファベットの「自主練習」も…

竹田佳彦 (2019年10月1日付 東京新聞朝刊に一部加筆)

パリ特派員の子育て通信

 2017年9月からフランスに駐在する東京新聞パリ支局の竹田佳彦記者(41)が、現地の子育てについてつづります。随時掲載。
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アルファベットの練習をする娘

 9月から幼稚園の新学期が始まりました。クラス替えもあり、娘(3つ)は一番の仲良しのレオニーちゃんと別のクラスになりましたが、ルイ君やエリオット君、アストリッドちゃんら仲の良い8人が同じクラスになりました。

 この9月に転勤してきた担任のモード先生は、ZEP(優先教育地区)と呼ばれる移民や低所得者層が多い地区で9年勤めた経験があります。フランス語がつたない子どもと向き合う機会も多かったでしょうし、外国人の娘にとっては頼もしい限りです。

 保護者説明会では当面の目標として、自分の名前をアルファベットの大文字で書けるようになること、と説明がありました。同じ年ごろの知り合いの日本人の子は平仮名、早い子は漢字も書けるようになっています。そう考えるとあまり高い目標には思えませんが、勉強の習慣をつけるのにはいいかもしれません。

 アルファベットを書く「自主練習」のやり方も説明があり、基本的にクラスでは子ども自身が取り組む姿勢を見守る方針だと伝えられました。とはいえ幼稚園でも練習するようで、娘もいつのまにか、冷蔵庫に貼り付けたアルファベット26文字の磁石を、自分の名前に並べることができるようになっていました。

 説明会で印象的だったのは言葉の習得の話です。子どもは3歳ぐらいで100語程度を覚え、3歳から6歳にかけてが最も言葉の吸収が良い時期なのだとか。本やチラシ、食事のメニューなど書かれたものは何でも声に出して読む練習をしてと言われました。

 併せて言われたのが「赤ちゃん言葉はもう卒業してください」。親もケガを意味する幼児語「Bobo(ボボ)」の代わりに、負傷や擦過傷、火傷など、ちゃんとした言葉を使わなければなりません。フランスでは3歳からが義務教育。もう赤ちゃんの時代は完全に終わりを告げました。

 説明会の時には、教室や廊下に展示する絵や工作も紹介されました。「お子さんの名前は裏面にしか書いていませんから、本人に聞いてくださいね。他の子どもと比べず、お子さん自身の成長に注目するようにしてください」とモード先生。どうしても上手な子の作品と見比べてしまう親にとっても、大切な学びの機会となりました。

 さてZEPにも少し触れたいと思います。1981年に導入。制度変更で正式名称ではありませんが、今も教育分野で定着した表現です。日本でも公開されたフランス映画「パリ20区、僕たちのクラス」もパリ市内のZEPに指定された地区の中学校が舞台。出身地も生い立ちも異なる子どもたちと向き合う若手教員の葛藤や苦悩を描き、カンヌ国際映画祭で最高賞に輝きました。

 こうした地区では問題を起こした子の保護者もフランス語が通じない場合が多く、教員は根気強く子どもや親と向き合うことが求められます。スラング(俗語)に慣れた子どもに正しいフランス語を教え、時間を守るなど生活ルールなども身に付けさせるには経験が必要です。しかし知人によると、任地として希望する教員がなかなかおらず、新任が配置されることが多いのだとか。「ZEPでは教員が疲弊し、意欲があっても燃え尽きてしまう」という指摘もあり、適正な教員配置や支援体制が課題になっています。

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