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そもそも「質の高い保育」って何だろう? トップランナーに聞く

写真 世田谷区の仁慈保幼園で遊ぶ子どもたち

世田谷区の仁慈保幼園で遊ぶ子どもたち

大丈夫?保育の質

 特集「大丈夫?保育の質」では、待機児童対策で保育所が急ピッチで作られる中、保育の安全が置き去りにされる懸念について伝えています。しかし「保育の質」と言っても定義はあいまいです。安全を守ることは最低限必要ですが、「質」の議論をそこにとどめていてはいけない、との指摘もあります。国も今年初めて「保育の質」をテーマにした検討会を作り、議論しています。東京都大田区と世田谷区で質の高い保育所を運営しているとして、検討会でも事例報告した社会福祉法人仁慈保幼園の理事長妹尾正教さん(53)に保育の質についての考えを聞きました。

「養護」とともに、人格形成の基礎を培う「教育」を

―保育の質に対する関心が高まっています

 質を考える上で、待遇を補償したり、働きやすい職場にしたりして保育を担う人材を十分確保して配置することや、保育室の面積などは大変重要です。しかし、それだけで保育の質が担保されるわけではありません。本当に質の高い保育というのは、ただ子どもたちに怪我をさせず、一日預かれば良い、ということではありません。

―どういうことでしょう

 今までは、どちらかといえば、幼稚園・こども園は「教育」、保育所は「養護」に重きを置いていると思われがちでした。しかし、今年4月に改定された保育所保育指針では、保育所保育においても子どもが安心・安定した生活が送れるようにする「養護」とともに、人格形成の基礎を培う「教育」を一体的に行うことが強調されています。

写真 インタビューに答える仁慈保幼園の理事長・妹尾正教さん

インタビューに答える仁慈保幼園の理事長・妹尾正教さん

 また、就学前のどの施設においても3歳以上の幼児教育を共通化するよう、保育所保育指針のほか、幼稚園教育要領、幼保連携型認定こども園教育・保育要領の文言がほぼ同じになりました。さらに今回は、小学校以降の学習指導要領の改訂でもこの就学前の育ちを受け止め、小学校以上の教育につながるように考慮されています。

早期教育ではなく、可能性や資質を引き出すこと

  子どもは生まれながらにしてあらゆるモノ、コトから学ぼうとしている。そこにこたえる環境を作らなくてはいけません。こういう話をすると、保護者の一部からは「やっぱり英会話や体操教室をやってもらわなきゃとか、数を早く覚えさせたほうがいい」とか、早期教育を求める声が上がりますが、私たちが言っているのはそういうものではありません。

―保育所での「教育」とはどんなことでしょうか

 幼児教育にたずさわる私たちが大切にしているのは、遊びの中で学んでいく、生活の中で五感を通していろいろなことを吸収していくということです。子ども自身が興味を持ち、自らつかもうとする気持ちを受け止め、環境を構成し援助することが保育士の役割です。

写真 仁慈保幼園で遊ぶ子どもたち

仁慈保幼園で遊ぶ子どもたち

 そもそも教育とは民主的な社会を実現するためにあります。そのためには教育も民主的でなくてはなりません。民主的な教育というのは、大人が一方的に教えて育てるということではなく、一人ひとりの中にある可能性や資質を引き出していくことだと思います。

日ごろから子どもの表情や行動を記録しています

―具体的にどんな保育を大切にしているのでしょうか

 私たちの園では一斉に全員に同じことをさせて、同じ目標に持っていこうとする保育はしません。保育室は子どもたちが興味を持っている遊びに応じて、いくつかのコーナーを作って本やおもちゃ、素材などを置いています。子どもはその日、その時、好きな場所で遊べる環境にあり、3、4、5歳児が混ざった異年齢のグループで過ごしています。

写真 仁慈保幼園の室内で過ごす保育士と子どもたち

仁慈保幼園の室内で過ごす保育士と子どもたち

 それから、例えば言うことを聞かない子がいたとして、矯正すれば良くなるという考えはしません。保育士たちは日ごろから子どもを観察し、そのつぶやきや会話、表情、行動などをきちんと記録していますから、この子は今までこういう風なものの見方や表現をしてきたとか、なぜ今日のこういう姿があるのかを考え、「言葉掛けを変えてみようか」という風にアプローチを変えていくのです。今は保育士が画一的なものに慣らされてしまっている面もありますが、そうした対応ができるのが保育の専門性でありそれは現場で子ども一人一人と向き合う保育士の裁量です。

主体性を伸ばすには…自分で判断する体験が必要

―あらためて乳幼児期の保育はなぜ重要なのでしょう

 保育所に通う時期というのは人生の根幹をつくる時期です。その原風景が、人生という年輪の最も中心に刻まれ、その人の価値基準、ものの見方を形作るのですから。その中心部分は、視覚や聴覚、触覚など五感というアンテナを通して、いろんなものに触れることで作られていきます。それに加えて、心を揺さぶられる体験が重要です。たとえば「楽しかった~」と心底感じた体験は、その時見えた風景だとか匂いだとかがセットになって自分の中に残っていきます。

写真 仁慈保幼園の園庭を駆け回る子どもたち

仁慈保幼園の園庭を駆け回る子どもたち

 今あちこちで主体的な子どもを育てたい、との声が聞かれますが、主体的であるためには、嫌なことも含めてあらゆる経験を豊かにして、自分で判断していく体験が必要です。そして自らが社会の一員として創造的に生きていくことを学んでいくことが大切です。この年齢の子どもたちには、自分で遊びを選び、夢中で遊ぶことが欠かせないのです。

 多くの地域で残念ながらいまだに保護者が保育所を選べる状況にはなっていません。それでも、子どもが育つ保育所の「保育の質」が重要であることを保護者の方たちにも伝えていきたいと思っています。

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