【フィンランドの親子にやさしい子育て・中】「待機児童はいません。行政の義務です」

(2016年6月30日付 東京新聞朝刊)

連載 フィンランドの親子にやさしい子育て

 フィンランドの首都、ヘルシンキ市ではここ数年、市内の子育て世帯が急増している。同市によると、昨年は主に近郊から1万8000人の転入超過があり、子ども1155人が新たに市内の保育所に通い始めた。

 これほどの保育需要の急増は、待機児童を生み出したのか。答えは否だ。

保育希望の人数をしっかり予測

 「希望する子ども全員が保育所に通っています。待機児童はいません」。市幼児教育担当専門職のハサリ・アランさんは強調する。

 市は出生率や人口動態予測により、市内で保育を希望する子どもの人数を予測。「十分に余裕を持って、施設を確保しますから」とアランさん。

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4週間の夏休みを取得する親が多いため、夏休みの保育所は園児が少ない=ヘルシンキ市のフランゼニア保育所で(寺本康弘撮影)

 ただし、子どもが希望する保育所に通えるとは限らない。保護者は市に申込書を提出する際に、第5希望までを列挙。この第5希望にほぼ入ることができるという。市は遅くとも2カ月以内に、入れる保育所を提示しなければならない。

 それを可能にしているのは、保育所数の多さと、定員に余裕があること。人口62万人のヘルシンキ市には市営328カ所、民営114カ所の計442カ所の保育所がある。定員約2万8800人に対し、通う子どもは約2万6000人。まだ2000人以上の余裕がある。

施設数も働き方も余裕がある

 日本の都市と比べると差は歴然としている。フィンランドに幼稚園はないため単純比較は難しいが、名古屋市がヘルシンキ市と同じ人口だったとすると、ヘルシンキ市の施設数は3.9倍、定員は2.5倍になる。

 フィンランドでは、1973年に保育所法が施行され、希望する子ども全員が保育所に通えるようにするため、自治体に対策を義務付けた。このため「1980年代は人口流入が激しく待機児童のリスクがあったが、今はない」(アランさん)。親が働いているかいないかは、入所条件ではないという。

 同国では、法律で3年間の育児休業を取得できる。このため、子どもが小さい間は母親が育休を取って自宅で子育てすることが多い。ヘルシンキ市で保育所(家庭保育を一部含む)に預けられている子どもの割合は▽ゼロ歳児0.2%▽1歳児23%▽2歳児58%▽3歳児78%▽4歳児87%▽5歳児88%-となっている。保育所がしっかり整備され、残業がほとんどない働き方の違いもあり、3年間の育休を取った後は職場復帰し、フルタイムで働くのが普通だという。

 アランさんは「人生の最初の数年間は発達や成長に最も重要な時期。子どもたちが遊ぶための十分な時間とスペース、施設を持てるようにするのが行政の義務です」としている。

日本では人も場所も足りない

 日本では、保育所に通う子どもが増加している。昨年4月には233万人で、10年前に比べ34万人増えた。行政は新設を急いでいるが、全く追いつかない状態。保育所に入れない待機児童数は昨年4月時点で2万3000人に達した。

 希望した保育所に入れずあきらめたり、認可外に入ったりしている「隠れ待機児童」も約6万人。背景には、保育需要が急増している半面、保育士が不足していて設置場所の確保も難しく、新設が進まないことがある。

 日本で保育所に通う子どもの割合は▽ゼロ歳児13%▽1、2歳児38%▽3~5歳児46%(ほかに幼稚園44%など)。低年齢児がヘルシンキ市より多いのは、育休が法律で1年間しか保障されていない影響とみられる。長時間労働のため、子育てとの両立をあきらめて、フルタイムの仕事をやめていく女性も多い。結果的に幼稚園に通う子どもが半数に上っている。

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