【フィンランドの親子にやさしい子育て・上】妊娠からずっと見守る「ネウボラ」

(2016年6月29日付 東京新聞朝刊)

連載 フィンランドの親子にやさしい子育て

 子育てしやすい国として名高い北欧フィンランド。国際NGO(非政府組織)セーブ・ザ・チルドレンから「世界で一番母親にやさしい国」に認定され、共働きで子育てするのが当たり前になっている。現地から報告する。

子どもの健康から親の状態まで

 「ご両親はきちんと睡眠を取れていますか」

 ヘルシンキ市北部の保健施設「ネウボラ」。保健師のピリオ・ラングドンさん(52)が、3人の子連れの夫婦に尋ねた。4歳の子を抱いた夫のスティーブ・シャラウェイさん(35)は「よく寝られていますよ」とにこやかに答えた。

 ラングドンさんがシャラウェイさん家族と初めて会ったのは5年前。親が子育てをきちんとできる状態にあるかどうか、子どもが健康に育っているかどうかを確かめており、1歳の子の体重を量り、「大きくなったわね」と笑顔を向けた。

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シャラウェイさん一家を担当する保健師ピリオ・ラングドンさん(左)。子どもと親の状態を見守る=ヘルシンキ市で(寺本康弘撮影)

 ラングドンさんが特に注意を払うのが、両親が子育てに疲れていないか、悩んでいないか、という点。「1、2歳児の親は睡眠が十分に取れず、疲れがたまってしまうことがある」ためだ。もし問題があれば、市のソーシャルワーカーを家庭に派遣。子育てを休む時間をつくり、精神的負担を軽減するように指導する。

 シャラウェイさんは「育児で分からないことや、子の成長に関して心配なことがあれば、ラングドンさんがアドバイスしてくれる。信頼しています」と話す。

育児問題の早期発見にも貢献

 フィンランドでは、1人の保健師が、妊娠期から産後、子どもが就学する前まで同じ家庭を見守り続ける。保健師が拠点にする施設や、長年同じ家庭を見守る仕組みのことを、同国語で「アドバイスする場」を意味するネウボラと呼ぶ。

 ネウボラは、人口550万人の同国に850カ所、62万人のヘルシンキ市に24カ所ある。子どもを授かった夫婦は、産前産後に11回、子どもが1歳になるまでに9回、1歳以降は毎年1回通う。長年見守り続けることで、児童虐待や家庭内暴力の防止につなげる意味もある。

 同国でネウボラが始まったのは1920年代。終戦後は高かった妊産婦と乳児の死亡率を下げるのに貢献した。約90年の歴史があり、ほとんどの親子が利用している。

 国立保健福祉センター母子保健部門研究総括のトゥオビ・ハクリネン教授は「子どもと夫婦には支援が必要だ。ネウボラに通うことで、さまざまな問題を早期に発見し、予防的に解決できる。問題が顕在化してから解決するよりも行政コスト的にも安く済む」と説明する。

日本は2020年までに整備目指す

 日本では、特定の保健師が妊娠から出産、子育てを通して継続的に同じ家族を見守るシステムはなく、問題を発見できる機会は少ない。ネウボラに詳しい吉備国際大の高橋睦子教授(福祉政策論)は「親は相談したくても、どこに行けばいいのか分からず、孤立してしまいがち」と分析する。

 国は、ネウボラを参考に妊娠から子育て期までの親を支える子育て世代包括支援センターを、2020年度末までに全国に整備する方針。

 高橋教授は「利用者目線の子育て支援へとステップアップすることで、虐待予防の効果が期待される。利用者の声をしっかりキャッチすることが支援のスタンスとしても大切」と話す。ただ、市町村に取り組みへの温度差があり、差を埋めるのが課題だという。

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