字が汚い、縄跳びできない「不器用」な子…実はDCD(発達性協調運動障害)かも 周囲の理解と支援が必要です
DCDとは
発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder)の略称。体の動きをコントロールする「協調」と呼ばれる脳機能の発達の障害。極端な不器用さから、「文字を書く」「ボタンを留める」「ブランコに乗る」など、日常や学校生活に関わる動作が苦手。注意欠陥多動性障害(ADHD)など、他の発達障害を併せ持つこともある。
練習で上達せず…「苦手」と違う気が
「あれ? うちの息子、他の子とちょっと違う?」。東京都内在住の女性(41)が気が付いたのは、息子(11)が幼稚園に入る前だった。滑り台はまっすぐ滑れず横向きになる。ジャンプしても、ほとんど浮いていなかった。
入園後も、どれだけ練習しても縄跳びができない。折り紙やブロックなど指先を使う遊びも苦手。「単に苦手なのとは違う気がする」。思い切って発達支援センターに電話をしてみたが、予約が取れず話を聞いてもらえなかった。
小学校入学後も気になることが増えた。廊下に掲示された作文の字は同級生の方がずっと上手に見えた。せめて漢字テストだけでもきれいに書けるようにと練習させるが上達せず、字が書けないことから、内容は理解しているのに成績も評価されない。野球やサッカーが苦手なので、友達と対等に遊べないことが増えた。親子とも、勉強や運動を頑張る意欲が失われていった。
診断を受け学校が配慮 生活しやすく
息子が小学4年の頃、何げなく見ていたツイッター(現X)で、DCDの投稿が目に入った。「字が下手」「運動が苦手」「手先が不器用」「縄跳びがうまく跳べない」。「これだ!」と思った女性は、養護教諭を通してDCDに詳しい小児精神科医につながり受診した。
問診や知能検査を経て、医師はDCDだと診断。「字なんか100回練習してもうまくなりませんよ。スパルタは無意味です」と言われて、衝撃を受けた。息子も「字の練習が一番つらかった。何度書いてもできないから」と言い、女性は「つらいことをさせてしまった」と涙が出た。
診断後は学校側が配慮してくれて、格段に生活しやすくなった。小学6年の今、授業の板書にはタブレットを活用。体育の授業も跳び箱は手をつくだけでOK。鉛筆のかわりに、握りやすい太めのシャープペンシルを使える。
女性は今年8月、ペンネーム「オチョのうつつ」として「なわとび跳べないぶきっちょくん-ただの運動オンチだと思ったら、DCDでした!」(合同出版)を出版。「こんな発達障害があることを知るきっかけになれば」と願う。
交流の場「DCDの子どもと家族の会」
「スカーフを天井に向かって投げてみよう!」。8月下旬、兵庫県西宮市の関西学院大キャンパスの一角で、「不器用な子どもとその家族のための発達支援教室『ハロハロ』」が開かれ、「DCDの子どもと家族の会」の親子12組が参加した。
この日は、地元スポーツクラブの指導者が、「投げたスカーフを手でパチンとキャッチしよう」と声をかけた。頭や背中でもキャッチした後、最後は足でリフティングも。自分の体の位置をつかみ、認識する感覚「固有覚」を養う練習だ。スカーフの代わりに風船を使ってもいい。
DCDの子どもと家族の会は2021年12月に発足。不器用さに悩む子どもをどう支援したらいいのか、専門家を招いた勉強会を開いている。同会代表で、関西学院大准教授の松井学洋さん(44)は、「同じように悩む保護者同士が、交流する場になっている」と話す。ただ、こうした親の会は全国的にみるとほとんどない。
医療・療育の現場でも認知度が低い
では、わが子に極端な不器用さがあることに気付いたらどうすればいいか。まずは、発達障害に詳しい専門医がいる医療機関に相談するのがよいが、武庫川女子大教育研究所教授の中井昭夫さんは「日本ではまだ医療・療育の現場でもDCDの認知度は低く、うまく対応してもらえなかったという声もよく耳にする」と指摘する。
DCDの診断は、米・精神医学会の診断基準「DSM-5-TR」などを参考にしながら、協調について客観的に評価することが必要。これまで日本では国際的な評価ツールがなかったため、現在中井さんが開発を進めている。
「サポートガイド」でポイントを解説
「DCDの子をどのようにサポートしたらよいか」。そんな声を多く聞いてきた中井さんは昨年、「イラストでわかるDCDの子どものサポートガイド」(合同出版)を出版。その中で、例えば、ボールの投げ方、縄跳びの跳び方、筆圧の調整、定規で線を引く時のポイントなどを説明している。
「その子が『できるようになりたい』という気持ちがあれば全力でサポートしてほしいが、(逆上がりやスキップ、縄跳びなどは)『生きていく上でどうしても必要なことなのか』という視点でも考えてほしい。たとえうまくいかなくても、それまでの頑張りを評価したり、褒めたりしてあげてほしい」とも。同じDCDでも一人一人困りごとやその程度は異なるといい「子どもと向き合い、話し合いながら、本人が望むことを手助けするのが大切」と話す。
子どもの5~8%「決して珍しくはない」
◇DCDに詳しい武庫川女子大教育研究所の中井昭夫教授の話
発達性協調運動障害(DCD)の「協調」とは、視知覚や触覚のほか、自分の体の位置や動き、力の入れ具合を感じる感覚などの情報を統合し、目的に合わせて対応、修正していく一連の脳機能のこと。この協調の発達に障害があり、極端に不器用なのがDCDだ。
例えばボールを投げる動きは、目標に向かって体をひねりながら、足を踏み出し、腕を振りかぶる。距離に合わせて力の入れ具合を調整し、タイミング良く指からボールを放す。DCDの子どもは、棒立ちの体勢で投げ、全身を使った動きが見られないことがある。「協調」は、運動だけでなく、文字を書く、箸やスプーンで食事をする、文具や道具を使うといった日常や学校生活に関わるほとんどの動作に関係している。
米・精神医学会の診断基準「DSM-5-TR」によると、子どもの約5~8%が該当するとされ、注意欠陥多動性障害(ADHD)の約7.2%とほぼ同等、自閉症スペクトラムの約1~2%より高い。中井さんは「決して珍しい状態ではない」と指摘する。
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