災害で保育がストップしたら?「一時預かり事業」が復旧までの橋渡しに 能登半島地震でも実施  

藤原啓嗣 (2024年4月10日付 東京新聞朝刊)
 能登半島地震の被災地で、災害時に特例で認められる一時預かり事業が、保育再開までの重要な橋渡し役となっている。石川県珠洲市は、市内3園の職員と園児を中心部にある「つばき保育園」に集約して一時預かりを継続。今後の制度の充実に向け、学識者は「災害時に保育士を確保する仕組みを強化させるべきだ」と訴える。 
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玄関に掲示された写真で、その日の活動を知る保護者=石川県珠洲市のつばき保育園で

建物倒壊 珠洲市内は全園が休園

 3月上旬、つばき保育園は、ボランティアで訪れた人気キャラクターの着ぐるみと触れ合う子どもたちの写真を玄関に掲示した。子どもを迎えに来た保護者に園での様子を伝えるため、保育士が発案した。長男の惟颯(いぶき)ちゃん(1)と見ていた同市総合病院の看護師浜山実奈さん(28)は「今は連絡帳がなくてさびしいが、こうした写真で子どもの表情が見られるとうれしい」と感謝する。

 珠洲市内にはつばきの他、宝立、みさきの保育所型の認定こども園があり、1月1日時点で計249人が利用していた。地震で多くの建物が倒壊し、ほぼ全域で断水が続いており、震災直後は全園が休園した。

 市外へ避難した職員もおり、保育士計37人のうち、3月末までに7人が退職。人手が足りず、通常の保育は難しい。だが、復興のため幼い子どもの預け先は欠かせない。珠洲市は、国が設けた「災害特例型の一時預かり事業」を活用し、定員250人と最も大規模なつばき保育園で1月18日に一時預かりを始めた。現時点で0~5歳児の120人前後が利用している。

「災害特例型」 利用者は負担なし

 この事業は、2016年の熊本地震の際にできた。地域の保育が継続困難なほどの大災害が起きた時に設けられ、能登半島地震で5回目。事業費の3分の1を国が補助、残りは県や市町村で賄い、利用者の負担はない。他の一時預かりと同様、それまで保育施設に通っていない子どもも利用できる。在籍する施設が利用できなくなった場合、籍はその施設に残したまま一時的に他施設を利用できる。

 輪島市や能登町も、通常の保育が再開するまでは、この一時預かり事業で対応している。金沢市などの保育施設は2次避難した家族の子どもを災害特例型で一時的に預かっており、石川県によると3月9日時点で県内198施設が災害特例型の事業を活用している。

なじめる? 保護者の不安に配慮

 浜山さんの長男も被災前は自宅近くの別の園に通っていた。自身は看護師で夫は測量の仕事に従事。復興のためには子どもを預けて働く必要があった。つばき保育園で一時預かりが始まるとすぐに申し込んだが、「子どもがなじめるか不安だった」。

 園側もこうした保護者の不安に配慮した。つばき以外の2園から通う子どもには、もともといた園の保育士が接するようにした。その結果、子どもたちが環境に慣れるのも早く、3園の子どもが交じって遊ぶ姿がすぐに見られた。

保育士の確保 外から支援が必要

 まだ水道は使えない。保育士も被災した自宅の復旧をしながら働いており、人手も十分ではない。従来のように保育記録を付けて、保護者に連絡帳を渡すのは難しい。

 それでも、職員は「不便でも生活できると分かって珠洲に帰ってくる人もいる」と使命感を語る。レトルトの支援物資を活用して週に3回昼食も提供する。つばき保育園の加護清美園長も「保育再開までの橋渡しとして一時預かりは有効だ」と手応えを示す。

 兵庫県立大大学院減災復興政策研究科の阪本真由美教授(被災者支援)は「一時預かりは子どもにとっては遊ぶ場であり、保護者は保育士や他の人たちと情報交換もできるため子育ての大事な場」と指摘。奥能登地方では保育士の約3割が出勤できなくなったといった課題もあり、「被災地の職員だけで回すのは非常に難しい。県外などの保育士の支援を受けられる仕組みをつくる必要がある」と訴える。

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