コラムニスト 石原壮一郎さん 両親の店を手伝って、僕は「大人とは何か」を学んだ

(2020年5月31日付 東京新聞朝刊)
子育て世代がつながる

家族のこと話そう

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石原壮一郎さん(本人提供)

お小遣い、愚痴、嫁の悪口…「みんな大変だな」

 両親は食料品やお酒を扱う小さな店を営んでいました。小中学生のころ、学校が終わった後に店番をしたり、近所に配達に行ったりと、よく店の手伝いをやらされました。

 地域の人が集まる場所だったので、いろんな大人と接する機会がありました。お小遣いをくれる人もいれば、店先でお酒を飲んで酔っぱらって、仕事の愚痴をこぼす人も。お嫁さんがしゅうとめさんの悪口を言っていると思ったら、別の日にそのしゅうとめさんが来て、お嫁さんの悪口を言ったり。大人の世界が垣間見え、みんな大変だなと思った。いろんな角度から人間模様を見ることができました。

 ほかの子どもは店番なんかやらなくていいのに、なんで自分だけ、という思いもあって、小学5年のとき、担任の先生に提出していた日記に、店番が嫌だと書いたことがありました。親に伝わったみたいで、父から「無駄にはならない。やっておいた方がいい」と、さらりと言われた記憶があります。父からは説教されたことも、ほめられたこともありませんが、今思うと、店を手伝わせるのが教育のつもりだったのかなと。

折り合いをつけてハッピーに過ごせるのが大人

 人間関係とか、仕事での理不尽な仕打ちとか、能力の限界とか、楽しく生きることを阻むものはたくさんある。そうしたものと、あの手この手でうまく折り合いをつけながらハッピーに過ごせる人が、大人だと思います。僕は大人をテーマにした本を書いてきましたが、店の手伝いをして、いろんな大人を見てきた経験がベースになっているのかもしれません。

 父は家の中ではむすっとしていて、感情を素直に表すのが苦手な人。でも、近所の集まりとか、家の外では全く違っていて、とぼけたことを言っては場を盛り上げる人でした。僕が結婚したとき、地元の料亭で親類や近しい人向けのお披露目会を開いたんですが、料亭の仲居さんが「きれいなお嫁さんですね」と言うと、父は「あんたほどじゃない」と。家では冗談一つ言わないのに、こういう場では軽口をたたいて、ウケをとろうとするんです。

母は「本音と建前」を見抜くのが上手だった

 母は、相手の本音と建前を見抜くのが上手な人でした。店に来たお客さんが息子の妻の悪口を言うのを聞いてあげた後、「あの人は息子を取られて寂しいだけなんだね」と言ったり。人の言葉には表と裏があることを学びました。

 人間にはいろんな一面があって、それぞれが状況に応じて自分の居場所を見つけて、できることをやって生きている。正義とか正論で片付けられるほど、単純なものじゃない。大人とは何かを考えることにつながる、そんな複合的な視点は、両親から教わったと思います。

石原壮一郎(いしはら・そういちろう) 

1963年、三重県松阪市生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に「大人養成講座」でデビュー。大人などをテーマに100を超える著書があり、最新刊「恥をかかない コミュマスター養成ドリル」(扶桑社)を今月発売。2013年に同県の製麺業界などから「伊勢うどん大使」に任命され、故郷の名物をPRしている。2019年3月に出版された「思い出を宝ものに変える 家族史ノート」では監修を担当した。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年5月31日

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