道化師 Changさん 自慢の兄だけど比べられたくない…コンプレックスから得たものは

熊崎未奈 (2022年4月24日付 東京新聞朝刊)
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2人の兄について語るChangさん(中村千春撮影)

家族のこと話そう

兄2人と違って、勉強も運動も苦手

 2018年に名古屋市で、道化師(クラウン)の劇団「ラストラーダカンパニー」を設立しました。言葉を一切使わず、体の動きや表情だけで伝えるパントマイムの舞台や、ジャグリングといった大道芸を国内外で上演してきました。

 道化師との出会いは高校2年の頃。新聞広告を見て、市内のクラウンチームが一般向けにパントマイムなどの講座を開くと知り、「面白そう」と応募しました。当時は料理人になるのが夢で、海外に修業に行ったり、自分でお店を開いたりしたときに、芸があることは強みになるかなという気持ちもありました。

 4歳上と5歳上の兄がいて、僕は末っ子として甘やかされて育ちました。兄は2人とも成績が良く、学校の合唱コンクールではピアノ伴奏をして、友達もたくさんいて目立つタイプ。僕は勉強も運動も苦手でした。自慢のお兄ちゃんでありながら、僕自身はずっとコンプレックスを感じていた。兄と比べられるのが嫌で、競争も嫌いでした。

「おまえも頑張ってるな」と言われ

 道化師の講座に行ったのは、人と比べられないからというのもありました。学校のクラブ活動や課外授業ではないので、「できなくても誰にもばれないかな」と思ったんです。

 高校を卒業後、調理の専門学校に通いながら、地域の大道芸のイベントなどに出演するようになりました。そこで、練習すればするほど技が増え、見る人を笑顔にできる道化師の魅力にのめり込んだんです。プロとして活動を本格化させ、2005年、米イリノイ州でのクラウンパフォーマンスの世界大会に出場し、最優秀賞を頂きました。

 ある時、そんな様子を見ていた2番目の兄から「おまえも頑張ってるな」と言われました。そのひと言で「あ、自分は頑張っていたんだ」と初めて気付いたんです。「これでいいんだ」と認められた気がして、その頃から海外での活動も増え始めました。兄へのコンプレックスが力になっていたんだなと思いました。

楽しみ、自分にしかできない表現を

 兄と比べられるのが嫌いでしたが、よく考えれば、自分が勝手に比べていたんです。でも、「誰かよりうまくならなきゃ」と思うと疲れてしまう。ただただパフォーマンスを楽しむため、うまくなるために練習する。そうすると、自分にしかできない表現が広がると分かりました。

 こういう価値観を持てたのは、兄をはじめ家族のおかげですね。僕らの舞台は多くの子どもたちが見に来てくれます。競争が苦手な子どもたちにも、舞台を通じて、人と比べなくてもいいんだよと伝えたいです。

Chang(チャン)

 名古屋市生まれ。道化師の技に物語性を盛り込んだ内容が評価され、制作・出演する舞台「サーカスの灯(ひ)」が2018年、厚生労働省社会保障審議会が推薦する児童福祉文化財に認定された。2021年、名古屋市文化振興事業団の芸術創造賞を受賞。劇場や学校での上演のほか、離島や過疎地域での演劇講座にも力を入れる。

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