ヤングケアラーだった私が君の味方になりたい 小2で母が精神疾患、病院にも行けず… 仲間と作った「悩みを語り合える場」

近藤統義 (2022年5月5日付 東京新聞朝刊)
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精神疾患の母と向き合ってきた経験を語る小林鮎奈さん=東京都内で

かつてのヤングケアラーから 今しんどいあなたへ(1)

 「ヤングケアラー」と呼ばれる子どもたちがいる。大人に代わって家事や家族の介護などを日常的に担っており、心身の負担や学習の遅れ、友だちとの関係がうまく築けないなど、さまざまな影響を受けている。元当事者らに、自身の体験を通して今しんどい思いをしている子どもたちや社会へ伝えたいことを聞いた。

「何でうちのお母さんはだらしないの」

 同じ話に何度、相づちを打っただろう。看護師として働く小林鮎奈さん(31)は青春時代、精神疾患がある母の話し相手となる日々を過ごした。「ヤングケアラー」の一人だった。

 小学2年生のとき、母が突然発症した。妄想や幻聴の症状がある統合失調症と、そう状態とうつ状態を繰り返す双極性障害。6年生になって初めて父から病名を告げられたが、よく理解できなかった。

 いつもは優しい母はひとたび調子を崩すと、落ち込んで泣いたり、だるそうに寝込んだり。「何でうちのお母さんはだらしないの」。友達の親と比べ、そう口走ったこともあった。

 家族など周囲に対する脈絡のない話も繰り返し聞いた。耳を傾けたのは父や兄ではなく、主に小林さん。神経はすり減り、次第に自身の心も不安定になる。

 中学に入ると自暴自棄になり、自傷行為もした。学校に行かず、家にもいたくない。友達と外で遊ぶことで気を紛らわせた。

服薬を嫌がる母、病院にも突き放されて

 母の病気に向き合ったのは高校生になってから。インターネットで精神疾患の情報を調べ、「だらしない」と責めるような言葉が病状を悪化させていたかもしれないと知った。

 振り返れば、つらそうな様子でもお弁当を作り、学校への送り迎えもしてくれた。「母なりに頑張ってきてくれたんだ」と罪悪感が募り、「母を何とかしたい」と思うようになった。

 だが、孤独と偏見が立ちふさがった。

 病気を認めたくない母は通院と服薬を嫌がり、病院には「連れてきてもらわないと何もできない」と突き放された。地域で白い目で見られるのを恐れ、役所の窓口に相談することもできず、家庭の中で抱え込むしかなかった。

転機は「家族会」同じ立場の子と出会う

 転機が訪れたのは、親元を離れた看護学生のころ。精神疾患の患者の家族が集う「家族会」の存在を知り、そこで同じ子どもの立場の人たちと出会った。

 「私の体験なんて大したことないんだけど…」。これまで胸に秘めてきた感情を打ち明けると「いや、大変なことだと思っていいんだよ」。こう力説され、初めて自分の生き方を肯定してもらえた気がした。

 そんな仲間たちと2018年、「精神疾患の親をもつ子どもの会(こどもぴあ)」を立ち上げた。悩みを語り合える場を開き、「ひとりじゃない」というメッセージを共有する。

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こどもぴあのオンライン集会。仲間の話に共感したときに「わかるぅ」の札を上げる(小林さん提供)

「味方になってくれる大人がいたら…」

 還暦を過ぎた母はここ数年、病状が安定し穏やかに暮らしている。「ケアの経験はマイナスだけではなく、母を通して見てきた世界があるから今がある」と小林さん。東京都内の精神科病院に勤めながら、埼玉県西部で訪問看護に携わっている。

 それでも、思う。「あのとき味方になってくれる大人がいたら」と。だから、患者には子どもの状況を聞き、機会があれば意識的に子どもに声をかける。「病院や学校、地域といろんな場所に網を広げ、子どもの小さな異変を見過ごさず、気にかけることが大事」

 ケアラーの生きづらさを少しでもほぐしたい。「一人で悩まないでほしい。助けてくれる人は必ずどこかにいる」。そのためにできることが自らにあると信じている。

高2の25人に1人が経験 2020年、埼玉県調査 SNS活用し支援強化へ

 「ヤングケアラー」は大人に代わり、家族の世話や家事を日常的に担う18歳未満の子どもを指す。埼玉県は2020年3月、「ヤング」を含むケアラーの支援条例を全国に先駆けて制定。入間市もヤングケアラーに特化した全国初の条例づくりを進めるなど、行政の間で実態把握や支援の動きが広がっている。

 県が同年に行った実態調査では、高校2年生の約25人に1人がケアを経験したと回答。その後の厚生労働省の全国調査でも小学生6.5%、中学生5.7%、高校生4.1%がヤングケアラーに該当した。

 一方で子ども本人に自覚がなかったり、一人で悩みを抱えたりする傾向も強い。県は気付きを促そうと、昨年から元当事者らによる出前授業を学校で開催。当事者同士が語り合えるオンラインサロンも開いている。

 今年はさらにSNSで気軽に相談できる仕組みを整えるほか、市町村などと協議会を設置して生活を援助する具体的なサービスを検討する。ヤングケアラーの早期発見につなげるため、子どもと接する機会が多い子ども食堂の運営者らを対象に研修も行う。

ヤングケアラーに関する主な問い合わせ先

子どもスマイルネット 電話 048-822-7007
毎日午前10時半~午後6時(祝日・年末年始を除く)
よりそいホットライン 電話 0120-279-338
毎日24時間
親と子どもの悩み事相談@埼玉 Webサイト
LINEで相談できます
精神疾患をもつ子供の会(こどもぴあ) Webサイト
メール:
kodomoftf@gmail.com
ケアカフェ碧空(りく) Webサイト
メール:
carecafe.riku@gmail.com

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年5月5日

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  • Rei says:

    小林さんが初めて家族会に参加された日のことを覚えています。親の立場の話は多く聞いてきましたが、病気の事をまだ理解できていない子供の立場の大変さを、改めて感じたものでした。

    そのうち、会に参加していらした子供の立場の方との繋がり、そして新たな広がりと仲間を得て「こどもぴあ」を立ち上げられたご様子に、素晴らしい実行力だと感心しました。それ以来、子供の立場の方には「こどもぴあ」を紹介しています。

    精神疾患は長くかかります。自分自身のつらさや悲しさをバネにして仲間同士で助け合っていくこと、正しい知識や、社会的援助のことを学ぶ機会を増やしていくこと。そうした学びや実践は最初は大変でも、やがて良い結果をもたらすことは、家族会で実感しています。「こどもぴあ」を心から応援しています。

    Rei 女性 70代以上
  • ぱんだ says:

    ヤングとはいえない20代後半の年齢でしたが、実父が事故により下半身麻痺となり、急に介護の生活が始まりました。
    婚約に近い状況であった交際相手とも別れることになるなど、それまでの生活が全て変わりました。

    子供を含む家族が、介護や世話をすることを周囲が当たり前と捉えていたり、『若いのに面倒をみてえらいね!』などと美談にするような風潮が、周りに助けを求めにくくしている要因の一つのように思います。

    一般的に若いと言われる年齢の家族が、異性の親や祖父母への身体ケアをすることはお互いが少なからずストレスを感じると思います。
    当時は同じような立場にある方や経験のある方に相談できる場があればと、何度も思いました。

    こういった活動に触れ自分だけではないと感じられるようにしていくことは、とても大切だと思う一方で年齢ばかりが強調されてしまうことを残念に思う気持ちも拭えません。

    ぱんだ 女性 50代
  • もてぃ says:

    私は40代で、8才と4才の子どもがいます。3年前に大腸癌が肺に転移しているのが見つかり化学療法中です。治療がより長く継続でき子どもに少しでも長い時間寄り添っていきたいと希望しておりますが、子ども達のことを考えると不安でなりません。夫は協力的ですが働くことに心身ともにエネルギーを使っています。精神的なこと、学習面のこと、進学のこと、犯罪や事故、心配事は尽きませんが、心の隙間をどのくらい自分で助けられるのかとても気になっています。
    困った時に手をのばせるようになってほしい、伸ばしたところに助けてくれる大人がいてくださったら、と願うばかりでいました。

    上記ヤングケアラーの方々が言葉では言い表せないないほど頑張って生きてこられて、また同じ境遇の子ども達を助けるために、「一人で悩まないでほしい。助けてくれる人は必ずどこかにいる」というお心で活動なさっている記述を読んでとても励まされました。
    また、このような強い思いから、救いの手を差し伸べている大人がいることを、困っている子ども達に知ってもらいたいです。

    私事ですが、朝勝手に,おはようおばさん,をやらせてもらっています、住んでいる所が学校の裏なので、登校者が多いことが理由です「おはようございます、いってらっしゃい」とPTAのネームプレートを首から下げて勝手に声を掛けるいうものです。変なおばさんが立っている道などとその通学路が少しでも安全になってくれればと思って始めたことですが、
    「病院や学校、地域といろんな場所に網を広げ、子どもの小さな異変を見過ごさず、気にかけることが大事」と読み、小さな異変に気付けるように、私にできることはないかと考えさせられました。

    ヤングケアラーの子ども達に対して、条例、行政の実態把握や支援、相談できる仕組みが、より広がり整っていくことを願います。

    もてぃ 女性 40代

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