都心の公園で遊具が減っています さらに複合化・小型化 理由は2002年にできた基準「安全領域」

瀬野由香、中沢誠 (2023年8月8日付 東京新聞朝刊)
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すべり台のついた複合遊具で遊ぶ子ども=港区で

 「公園の遊具が減っている」。東京都内の小学生から東京新聞「発言欄」に投稿があり、東京23区を調べると、2017年度以降、全体の1割超に当たる414カ所の区立公園で遊具が減っていたことが分かった。全国的には1公園当たりの遊具の数に大きな変動はない。なぜ都区内で減っているのだろうか?

23区を調査 遊具がなくなった公園も

 「安全に遊べて、魅力的な遊具をもっと増やして」。今年3月、東京都足立区の小学6年(当時)の下野宙(しものそら)さんから投稿が寄せられ、記者が動いた。

 東京新聞は6~7月、23区にアンケートを実施。2017年度以降の7年間で、遊具が増えた公園、減った公園の数や遊具の種類の変動などを各区に尋ねた。

表 東京23区で遊具が増えた公園と減った公園の数

 その結果、2017年度に遊具のあった公園3171カ所(過去のデータがない世田谷区は除く)のうち、遊具が増えた公園は213カ所。一方、遊具が減った公園は414カ所あった(墨田区は2019年度、北区は2020年度との比較)。この7年で遊具がなくなった公園は5カ所あった。

2002年に定められた「安全領域」確保

 遊具が減った理由について、23区の多くが「更新の際、『遊具の安全に関する規準』で定められた安全領域を確保できないため」と回答した。

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遊具の周りには「安全領域」を設けることが定められている=港区で

 規準は2002年、遊具メーカーなどでつくる「日本公園施設業協会」が国土交通省の指針に沿って策定。子どもが遊具から落ちたり、飛び出したりして事故になりそうな範囲に「安全領域」を設けるよう定めた。

都心は公園が狭いため制約を受けやすい

 遊具の更新に合わせて、規準を満たすよう整備しているのは23区だけではない。23区が規準の制約を受けやすいのは、「公園が狭い」という都心ならではの事情があるからだ。

 台東区の担当者は「元々公園が狭い上に、昔は敷地ギチギチに遊具を設置していたので、安全規準を満たそうとすると遊具を置けなくなる」と明かす。

「遊具のリストラだ」住民から反発も

 公園の遊具は全国的に老朽化が進む。国の後押しで遊具の更新が加速しているが、遊具の数や規模の縮小に住民から反発も起きている。杉並区では2019年、住民から不満の声が上がり、区議会でも「遊具のリストラだ」と追及を受けた。

 ただ、過去には遊具で死亡事故が起きており、規準を満たしていなければ区はその責任を免れない。更新による遊具減少について、足立区の担当者は「安全に使ってもらうためにはやむを得ない」と話した。

遊具の安全に関する規準

 日本公園施設業協会が遊具の製造や点検のため、具体的な数値を定めた安全基準。遊具の高さが60センチ以下の場合は周囲に150センチ以上、高さが60センチを超える場合は周囲に180センチ以上の「安全領域」という何も置かない場所を設けるよう定めている。この他、遊具の危険度を0~3の4段階に分類し、点検する際の指標としている。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年8月3日

狭い敷地を有効活用できる「複合遊具」

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すべり台や縄ばしごが一体となり、多様な遊び方ができる複合遊具=港区で

 東京都心の公園の風景が変わりつつある-。東京新聞の調査では、東京23区で2017年度以降、遊具のある区立公園の1割超に当たる400カ所超で遊具が減った。安全規準の導入を受け「何もない」場所の確保が必要となったためで、各自治体は誰もが楽しめる公園づくりに頭を悩ませている。

すべり台、ブランコ…から変わる風景

 真夏の日差しが照り付ける昼下がり。港区の公園では、すべり台や縄ばしごなどが一体となった複合遊具で子どもたちが夢中になって遊んでいた。7歳の娘と来ていた父親(51)は「いろいろな遊び方ができるのがいいですね」と話す。

 近年、複数の機能を集約した「複合遊具」が増えている。調査では、板橋区、荒川区、新宿区など8区が、2017年度以降に増えた遊具に複合遊具を挙げた。

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公園の複合遊具で遊ぶ子どもたち=港区で

 かつて公園遊具の定番といえば、すべり台、ブランコ、砂場。だが2002年、遊具メーカーなどでつくる「日本公園施設業協会」が国土交通省の指針に沿って「遊具の安全に関する規準」を策定し、事情が変わった。

未就学児も小学生も 多様な遊び方

 規準では、子どもが遊具から落下したり、飛び出したりして事故が懸念される範囲に何も置かない「安全領域」を設けるよう規定。狭い公園を抱える23区では、老朽化した遊具の更新に伴い、スペース確保のため遊具撤去が相次ぐ。

 安全に配慮し、限られた場所の中でいかに魅力的な遊具を整備したらいいか。23区にとって、そうした悩みを解消してくれるのが複合遊具だった。

 中野区の担当者は「1つの遊具で未就学児から小学生まで遊べる。子どもたちの人気も高い」。遊具メーカー「日都産業」(東京)の営業担当者は「狭い敷地を有効利用できる上、いろんな機能があるので多様な遊び方ができる」と話す。

4連ブランコを2連に 小型化も進む

 遊具は複合化と同時に、小型化も進んでいる。12区が更新の際、4連ブランコを2連にしたり、すべり台の大きさを一回り小さくしたりするなど、遊具を小さくした公園があると回答。確認できただけで56カ所あった。江東区の担当者は「公園の広さを考えると、安全規準に合わせるためには遊具を小さくせざるを得ない」と打ち明ける。

 台座に乗って揺らして遊ぶ「ロッキング遊具」も場所を取らないので増えている。以前はバネ式の「スプリング遊具」が主流だったが、バネが破損しやすく、支柱型のロッキング遊具に置き換わっている。

(表)東京23区で増えた遊具・減った遊具 (写真)ロッキング遊具とスプリング遊具、健康遊具

 遊具選びにも変化が起きている。「遊具を入れ替えるときには、近くの住民や保育園に遊具のイメージ図を付けてアンケートを行っている」と話すのは品川区の担当者。公園の利用状況を分析したり、住民から意見を募ったりして遊具を選んでいる区も複数あった。

 待機児童解消のため保育園を増設した杉並区は、一部の公園を園庭に活用できるように、1~3歳児向けの遊具に置き換えた。

高齢者の多い地域には「健康遊具」

 ストレッチや筋力トレーニングで使える「健康遊具」も増えている。江戸川区の担当者は「高齢者の利用が多い地域では、公園改修の際、健康遊具に入れ替えることもある」。調査では、同区を含む13区が「増えた」と回答した。

 健康遊具は過去20年間で全国で7倍に増えた(国交省調査)。公園を調査研究する「公園財団」の町田誠常務理事は「少子高齢化が進む中で、公園は子どもだけのものでは、なくなってきている」と分析した。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年8月3日

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  • 中学生 says:

    遊具による児童の死亡事故や、怪我等の事故があるのは事実。しかし今の児童は体力の低下が著しい。今の児童の体力の向上。また、遊具を使用することによる思考力の向上。これらの点を踏まえて、公園などの児童が遊ぶ場から遊具などを撤去するのは望ましくないと自分は思う。

    中学生 男性 10代
  • ちーまま says:

    昔の遊具の方が良かった。と子供達が言うことがほとんど。
    魅力的な公園が減っているのを感じます。
    公園自体が少ない目黒区だから余計にそう感じるのかも。

    ちーまま 女性 40代
  • says:

    遊具のせいで子供が亡くなるというのは少子化問題に直結すると思う。
    それを防ごうとするのは間違っていないのではないか。

    鷲 その他 10代

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