〈古泉智浩 里親映画の世界〉vol.7『エスター』「試し行動」かと思っていたのに…

子育て世代がつながる

古泉智浩「里親映画の世界」

vol.7『エスター』(2009年 アメリカ/9歳/公式里親)

 養子を迎えようと養護施設を訪れたケイトとジョンの夫婦。そこで出会ったのが聡明な9歳の女の子エスターでした。夫婦の間には、5年生くらいの小学生男子のダニエルと、幼稚園児の女の子のマックスがいます。ケイトは3人目の子どもを死産でなくして悲しみにふけっており、エスターを養子を迎え、亡くした子に注ぐつもりでいた愛情を注ぎます。エスターは身ぎれいで絵が上手で、コミュニケーション能力も高く、すぐに一家になじみます。ところが、次第に異変が起こってきます。

 一般にすでに物心のついた子どもを里子や養子で迎えた場合、「親試し」「試し行動」という試練が待ち構えていると言われています。迎えられた直後は、よそ行きの顔をしており、いい子でいることが多いのですが、しばらくして慣れてくると自分が本当に養親に受け入れてもらえているのか、問題行動を起こして愛情を試します。「毎日何度も手を強く噛まれる」「食事ごとに味噌汁を毎回ひっくり返される」…。

 僕も里親になる前、テレビのドキュメンタリー番組でこんな様子を見たときには、震え上がりました。試し行動が続く1年ほどの間、里親がじっと耐え、向き合うことで、子どもは自分が受け入れてもらえているのだと確信できて、ようやく落ち着いていくのです。

 自分たちがそんな子を引き取った場合、その試練に耐えることができるだろうか、そんな根性はあるだろうか。もし耐えきれなかったら、より深く子どもを傷つけてしまうのではないだろうか。そんな不安が強くなり、「自分は2才くらいまでの子を里子に迎えたいな」と思ったものです。結果的に僕らは赤ん坊からの里子で、子どもがやってきてくれたことに感謝することしかありませんでした。しかし、大きな子を受け入れる家庭のしんどさは計り知れません。

 この映画も、9才の子どもを迎えた場合の試し行動や家庭に起こるであろうトラブルがベースとなっていて、極端なケースを描いているのだろう、と思って見ていたらとんでもない展開となり、度肝を抜かれてしまいます。そのリアリティーと地続きの恐怖が描かれているホラー作品なのです。

 さて、ここから先は完全にネタバレとなりますので、映画を心から楽しんでびっくりしたいと思っている人は絶対に読まないでくださいね。

 エスターが来て、長男のダニエルは親の注目がエスターにばかり行くことですねてしまいます。一方、エスターは、難聴で手話を使うマックスと会話するため、あっという間に手話を習得。マックスを子分のように扱います。

 ピアノの先生であるケイトをだまして、本当は上級者なのに下手なふりをしたり、ケイトとジョンの夫婦の営みをエスターが覗いていたり…。徐々に家の中が不穏な雰囲気で満たされていきます。2人の実子たちはストレスにさらされ、見ていて気が気でありません。

 しばらくして、薄々エスターの異常さに気づき始めたケイトの元に、養護施設のシスターが訪れます。エスターの出自やこれまでの経歴を伝えるためです。しかし、シスターの帰宅時、エスターは交通事故を引き起こし、金槌でシスターの頭を殴り殺してしまいます。そして、マックスも手下として使われ、目の前で人が惨殺されるところを目にし、死体の隠ぺいも手伝わされているのです。

 ケイトにはアルコール依存症であった過去があり、ジョンには浮気をしていた過去があります。そんな2人の秘密をエスターはケイトの日記から読み取って2人をじわじわと対立させていきます。

 雰囲気がどんどん悪くなっていく中、とうとうエスターの正体が判明します。脳下垂体のホルモン異常で子どもの姿のままの33歳の女性で、これまで関わった人が変死したり家が火事になったりしていました。

 ケイトが不在の夜、エスターはケイトのドレスを自分のサイズに裁断して色っぽい化粧をしてジョンに迫ります。拒絶されると、エスターは怒り狂ってジョンをめった刺しにして殺します。エスターはこれまでも関わった養父であろう写真を古い聖書に何枚もを挟んでいました。彼女は確かに異常者ですが、おそらく養父に対して恋をしており、それが受け入れてもらえないことで、極端な行動に出てしまい結果的に居場所を失う。そんな悲しさすら感じます。

 この映画が恐ろしかったのは、我々の生活と地続きである恐怖を描いているためです。非常にぞっとする話でした。里親映画としての勇気度はゼロとしましたが、むしろマイナスです…。この映画を見て、里親を志す人が減らないでほしいという気持ちでいっぱいです。

◇予告編

 

◇ブルーレイ&DVD発売中
ブルーレイ :2381円 DVD:1429円(いずれも税抜き価格)
販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
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古泉智浩(こいずみ・ともひろ)

 1969年、新潟県生まれ。93年にヤングマガジンちばてつや賞大賞を受賞してデビュー。代表作に『ジンバルロック』『死んだ目をした少年』『チェリーボーイズ』など。不妊治療を経て里親になるまでの経緯を書いたエッセイ『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』や続編のコミックエッセイ『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』で、里子との日々を描いて話題を呼んだ。現在、漫画配信サイト「Vコミ」にて『漫画 うちの子になりなよ』連載中。

〈古泉智浩 里親映画の世界〉イントロダクション―僕の背中を押してくれた「里親映画」とは?

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