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〈古泉智浩 里親映画の世界〉vol.12 『夕陽のあと』近所の顔なじみが、うちの子の実親だった…

   

古泉智浩「里親映画の世界」

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採点表

vol.12『夕陽のあと』(2019年 日本/0~8歳男/公式里子)

 里子を迎えたり、特別養子縁組を実際に経験してみるとそれなりにドラマはあるものの、もしフィクションの作品にした場合、面白いかどうかと言えば、ベタでありがちで誰でも思いつくようなものでしかなく、自分でフィクションとして描きたいとは全く思いませんでした。僕の漫画やエッセイは実体験をレポートする形です。


〈前回はこちら〉vol.11 『おまえうまそうだな』僕も言われたい「お父さんはお父さん」


 こうして里親映画を数々紹介しておりますが、犯罪や事故などで里親になってしまうケースが多く、真正面から現実の里親活動や特別養子縁組を描いたものはありません。ところが11月公開予定の『夕陽のあと』はまさに現在の日本の制度のど真ん中での里親里子、養子縁組の現実を描いています。しかも面白い。

 鹿児島県長島町に暮らす日野五月(山田真歩)は不妊治療で経済的にも体にもダメージを受け、治療をあきらめて里子を受け入れることに。そうして0歳で五月の元にやって来たのが豊和くんです。豊和くんは五月と優一(永井大)夫婦、おばあちゃんのミエ(木内みどり)の元ですくすくと成長し、和太鼓のチームに入って練習に精を出しています。五月は漁港で働き、優一は漁に出ています。

 漁港の食堂では、美しいけれどどこか表情の暗い佐藤茜(貫地谷しほり)が働いています。茜は移住者プログラムで長嶋町に来ていて、豊和くんは茜とすっかり顔馴染みになっています。

 五月夫婦は、豊和くんとの特別養子縁組を進めようとしていました。真実告知をしておらず、五月のことを自分を産んだ母親であると信じている豊和くん。縁組の手続きを進めていくうちに、豊和くんの出自が明らかになると、産みの母親はなんと、漁港で働く都会から来た女、茜だったのです。茜はさまざまな苦難にさらされ、当時3カ月の豊和くんをネットカフェに置き去りにしてしまい親権を失っていました。それでも豊和くんを忘れることなどできず、近くに移住していたのです。

 実親が里子に出した子どもに接触するには、児童相談所を介さなければなりません。里親の家の情報などは実親には開示されません。僕は実名で里親活動についての本を出してしまったため、児相から注意を受けました。児相は虐待などで親子を強制的に引き離すことがあります。望まずに引き離された親は児相に強い怒りを抱き、そんな親が僕の本を読んだ場合、自分の子どもが古泉の家にいると勘違いして訪ねてくることがあるかもしれない、とのことでした。

 わが家のケースは、実親さんが里子に出すことを承諾していたのでそんな心配はしませんが、心変わりすることだってあり得ます。なので慎重にして欲しいと強く注意を受けました。僕はうかつな人間で、全くそんなことは予想もしませんでした。全くご注意の通りです。

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 近所に住んでいる顔なじみの女の人が、里子の親だった。驚愕だし、恐怖です。五月は茜に対して強い反発をし、町からいなくなって欲しいと願います。茜は縁組は認めない、子どもを返して欲しいと望み、2人は真っ向からぶつかります。しかし、お互い豊和くんを大切に思う者どうし、どうにかソフトランディングできないものでしょうか。

 僕は里親映画で度々起こるこの問題の解決策としては、「ご近所づきあい」が一番いいと思います。自分の子どもであっても、1日中家の中で騒いでいると「保育園に行って欲しい」と考えてしまうこともあります。誰か預かってくれる人がいると本当に助かります。そうして、茜に恋をする五月の幼馴染みから、画期的な提案がなされます。

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 見ていて気になったことが一つ。最近は子どもにあげるのに熱い食べ物をフーフーするのさえ、唾液が飛び虫歯菌が付着するからNG、と言われています。なのに、五月はキスをしたり、咀嚼した食べ物を離乳食として与えたりして、そのせいで、豊和くんは乳歯なのに虫歯になってしまいます。愛情の示し方として間違っているような…。おばあちゃんも自分の箸で食べ物を取り分けていて、里子との一線を踏み越えているのでは、と感じてしまいました。一方で、真に距離のない家族といった温かさもあり、僕自身の子どもとの接し方には距離があるのかな、と感じてしまうほど。なので愛着度は9です。

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 ただ、多くの映画や物語でありがちですが、子どもがいい子過ぎる問題をこの映画からも感じました。豊和くんが100点以上の、非の打ちどころのない子でした。ちょっとくらい負の側面も見たいと思い、育児度8です。

 勇気度は万に一つとは言え、恐怖を感じさせられるので8としました。

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◇「夕陽のあと」 11月8日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
 公式サイトはこちら

©2019長島大陸映画実行委員会

古泉智浩(こいずみ・ともひろ)

 1969年、新潟県生まれ。93年にヤングマガジンちばてつや賞大賞を受賞してデビュー。代表作に『ジンバルロック』『死んだ目をした少年』『チェリーボーイズ』など。不妊治療を経て里親になるまでの経緯を書いたエッセイ『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』や続編のコミックエッセイ『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』で、里子との日々を描いて話題を呼んだ。現在、漫画配信サイト「Vコミ」にて『漫画 うちの子になりなよ』連載中。

〈古泉智浩 里親映画の世界〉イントロダクション―僕の背中を押してくれた「里親映画」とは?