〈古泉智浩 里親映画の世界〉vol.6『さよならの朝に約束の花をかざろう』子どもがいれば親なのか

古泉智浩「里親映画の世界」

vol.6『さよならの朝に約束の花をかざろう』(2018年 日本/3カ月〜老人/保護)

 ファンタジーアニメ映画を50にもなるおじさんが見るのは気恥ずかしく、あまり関心もなかったので全くスルーするところだったのですが、ツイッターで「里親映画である」とお薦めしていただいて半信半疑で劇場に足を運びました。すると、ど直球の里親映画で、しかも超感動作でボロ泣きして帰宅する羽目になってしまいました。そして今回の文章を書くに際してDVDで再見するとまたもや大感動でボロ泣きしてしまいました。

 舞台はヨーロッパの中世を思わせる世界で、まだエンジンなど内燃機関が開発される以前の時代で、鉄砲は先込め式、馬がいる一方で竜もいます。国同士が戦争状態にあります。

 人里離れた地域にイオルフという長寿の種族がひっそりと暮らしていました。彼らは布を織りながら何百年も生きます。織った布は「ヒビオル」と呼ばれ、布には織った人のメッセージが込められており、彼らはそれで意思の伝達もします。イオルフの人たちは金髪で色白で、すらっとしていてぱっと見『ロード・オブ・ザ・リング』のエルフみたいな上品な感じです。

 一方、強大な軍事力である5頭の竜を持つメザーテ国では、これまで他国の侵略を阻んでいましたが、その竜が1頭また1頭と死んで行くので国王は焦っていました。竜は絶滅危惧種だったのです。メザーテ国王は、竜に代わる目玉を長寿の血に求め、イオルフの女性をさらうことにしました。そのため、イオルフの民は散り散りになって逃げ流浪の民となります。

 主人公のイオルフの女の子・マキアは15歳でしたが、一人で森をさまよっていると盗賊に襲われた一家の中で母親に抱かれた赤ん坊が生きているのを発見します。首が据わっているので3カ月か4カ月くらいの男の子です。マキアはそもそも引っ込み思案な性格で、逃亡生活には全く不向きで、自宅で織物をしているのがお似合いの少女です。しかし、赤ん坊を見過ごすわけには行かず、一緒に連れて行き、農家の納屋に侵入してヤギのミルクを与えようとしているところを家主のミドに発見されます。ミドはシングルマザーで2人の息子を養育しているたくましい母親です。マキアはミドに学んで母親として成長していきます。赤ん坊はエリアルと名付けられました。

 さて、イオルフは「別れの民」とも呼ばれています。それは長命のせいで、風貌が目立ち、奇異に見られるために土地を離れなければならなくなるのと、長寿すぎて一般の人々と死別してしまうという2つの意味があります。

 農場では、マキアは理解ある仲買人のおかげで織物を売って生計を立てることができました。息子のエリアルはすくすくと成長して6歳になりますがある日、イオルフの女を探す追っ手が近づいてきて慌てて農場を去ることになります。街で仕事を求めてさまよいますが、なかなか見つかりません。6歳の男の子は手がかかり、ミドも兄弟同然に育った男の子もおらず、育児ストレスと生活苦がマキアを襲います。

 僕自身全く根性がない人間なので、ストレスは感じる前に事前に回避するようにしています。現在4歳と1歳の子どもがいて、夕方以降は僕、妻、母で回しています。母が泊まりで出かけたりすると一気に大変になってしまいます。大人が2人でもけっこうきつい。ワンオペ育児で2人いるとか、双子とかその大変さは想像を絶します。児童虐待のニュースが時折ありますが、本当に頭がおかしい人のケースもあるとは思いますが、大体の場合は生活苦などによるストレスが原因なのではないでしょうか。人手が足りないとか、どうしようもなくきつい状況に陥っているのだと思います。

 生活ストレスによってあの、温厚なかわいらしいマキアがエリアルにきつく当たってしまい、エリアルは外に飛び出します。外はもう夜で雨が降っていて近くの川は増水してマキアは気が気でありません。ようやく見つけたエリアルは「僕はお母さんを守る」と言いマキアも母親としての覚悟を改めるのでした。

 こんなところに僕は、子どもによって親にさせてもらえているのだと心を打たれてしまうのです。実際自分たちで産んだわけでもないのに、親みたいなツラで保育園に行って、バイバイとか言って、仕事に行って、一体どの立場で親みたいにしているんだと時折ハッとなります。子どもがパパと呼んでくれなくなったらどうしよう。ただのおじさんでも別に問題ないような気もしますが、でもやっぱりパパと呼んでもらえているお陰で背筋が伸びる感じがします。厚かましく「パパだぞ〜」などとふざけて遊んでいます。

 さて、そうこうしているうちにエリアルが16歳になってマキアと距離を置きたがるようになります。普通に母親がうざい年頃ではありますが、しかし彼らは血縁がない上に、それまでお母さんと呼んでいた相手が、同級生くらいに見えるという複雑な事情があります。僕や妻は長男が16歳になる頃にはもうおじいさん、おばあさんなのでそんな心配は皆無なのですが、お母さんが女に見えてしまっていることが第二次性徴期の彼を混乱させているのでしょう。エリアルは親離れを決意し軍に入隊します。

 この映画では登場人物がとても繊細に丁寧に描かれており、いろいろな人々が登場しますが、特に「子ども目線の人」「親目線の人」が強調して描かれています。偉い立場の人で子どもがいても子ども目線のままの人がいれば、子どもなのに親の立場を理解して複眼的に見ているような人もいます。エリアルは子どもなのでお母さんを守れない自分に苦しみ、マキアは子どもの姿のまま完全にお母さんです。人はどのように親になるのか、子どもがいれば親なのか、「パパ」と呼んでくれれば親なのか。そんなことを考えさせられます。

 そしてとうとう戦争が始まり、戦火が激しくなります。家族ができたエリアルは最前線で戦い、マキアとイオルフ達も仲間を助け出そうと四苦八苦します。スケールの大きなアクションあり、戦闘場面あり、ハラハラドキドキしながら考えさせて感じさせる素晴らしいエンターテインメントです。2度目に見たら、思ったほど育児場面はなかったので育児度が9以外は満点です。アニメはちょっと…という映画ファンも敬遠しないでぜひご覧ください!

◇予告編

◇『さよならの朝に約束の花をかざろう』公式サイトはこちら

◇Blu-ray & DVD 発売中
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 発売・販売元:バンダイナムコアーツ

古泉智浩(こいずみ・ともひろ)

 1969年、新潟県生まれ。93年にヤングマガジンちばてつや賞大賞を受賞してデビュー。代表作に『ジンバルロック』『死んだ目をした少年』『チェリーボーイズ』など。不妊治療を経て里親になるまでの経緯を書いたエッセイ『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』や続編のコミックエッセイ『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』で、里子との日々を描いて話題を呼んだ。現在、漫画配信サイト「Vコミ」にて『漫画 うちの子になりなよ』連載中。

〈古泉智浩 里親映画の世界〉イントロダクション―僕の背中を押してくれた「里親映画」とは?

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