コスプレイヤー コノミアキラさん スキーの強化指定選手だったが挫折し…コスプレで向き合えた本当の自分

河郷丈史 (2022年2月6日付 東京新聞朝刊)
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コノミアキラさんの平時(Zoomのスクリーンショットから=左)とコスプレ時(本人提供=右)

家族のこと話そう

五輪を期待され英才教育 実は隠れオタク 

 人間よりもシカの数が多いような、北海道の山奥で育ちました。父はプロスキーヤーで、五輪選手を育成する指導者。私も五輪に出ることを期待され、3歳の時からスキーの英才教育を受けました。毎日、早朝に起きてランニングや筋トレをして、雪山で練習。漫画「巨人の星」の主人公の星飛雄馬と父・一徹みたいな感じです。本当は漫画やアニメが大好きでしたが、スキー以外の話題は何もないような家庭。とても「オタクです」とは言えず、親に内緒で読んでいました。

 中学1年の時、友達に誘われて札幌の同人誌即売会に出掛け、初めてコスプレイヤーの人たちを見ました。その中に、ゲーム「ファイナルファンタジー」のキャラクター・ヴィンセントになりきっている女性がいて、好きなことを全身で表現している姿がすごくかっこよかった。それに比べると、私はオタクであることを隠し、周囲が望む自分を演じていて、かっこわるいなと。その人は衣装の作り方とかイベントの参加の仕方とか、いろんなことを教えてくれました。コスプレを始めたのはそれからです。

高3で腰を負傷 母は「あなたが幸せなら」

 スキーではインターハイや国体に出場し、強化指定選手にまでなりました。でも、高校3年の時、練習中に腰を痛め、スキーができなくなったんです。自分は無価値な人間だと感じて、一時は死ぬことも考えました。そのとき、母から「あなたが好きなことをやって、幸せだったらそれでいい」と。地元を離れて人生を変えようと、高校卒業後は京都の大学に行きました。

 在学中、世界中のコスプレイヤーが名古屋に集まる「世界コスプレサミット」に参加したのをきっかけに、コスプレ関係の仕事で食べていくようになりました。コスプレは、自分を捨てて違う存在になることと思いがちですが、自分の良いところも悪いところも全て受け入れた上で、それをベースに表現しないとうまくいかない。スキーで周囲の期待に応えることばかりを考えてきた私にとって、コスプレは自分を成長させてくれる修業みたいなものなんです。

潜在意識にいる「父」は、自分自身の問題

 父とは今では気安く話せる間柄。ただ、私の潜在意識の中に、実際の父とは違うけど父みたいなキャラクターがいて、「おまえは期待されている。もっとできるはずだ」と追い詰めてくることが時々あります。幼少期に擦り込まれたプログラムです。でも、それは自分自身の問題なんだと、逃げずに向き合えるようになってからは、呪縛から解き放たれました。

 一流のクリエイターは、自分の中の暗い部分と向き合い、アートに昇華させて、見る人を癒やすことができます。私もそんなふうになりたいなと思います。 

コノミアキラ(このみ・あきら)

 北海道小樽市出身。2007、2010年の世界コスプレサミットで日本代表に選ばれた。エジプトやインドなど海外のイベントにゲストや審査員として参加し、歌手や声優としても活躍。2018年、コスプレ事業などの会社「テンペストハイウインド」を起業。2021年、コスプレ技術を広めるため「世界コスプレ技術検定協会」を設立した。

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