「たたかない育児」は生きる力につながる 高祖常子さんが訴える体罰禁止の意味

(2021年2月6日付 東京新聞朝刊)
子育て世代がつながる
 「しつけ」と称した子どもへの体罰が法律で禁止されてから4月で1年。子育てアドバイザーの高祖常子(こうそときこ)さん(60)は、法施行前から「しつけに体罰は不要」と訴え、全国の親らに「まずはたたかない、怒鳴らない、と決めることから」と説いてきた。親子がともにストレスなく過ごせるように。子どもを力でコントロールしない社会への転換を目指し、活動を続ける。インタビューし、その原動力と目指す社会について語ってもらった。 
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「たたかない子育て」を広める高祖常子さん=東京都葛飾区で(川上智世撮影)

手を上げたくなる…私もそうでした

―「たたかない子育て」を広めています。

 泣いたり駄々をこねたりする子どもに声を荒らげ、手を上げたくなった経験がある親は多いと思います。私もそうでした。たたきたいわけではなく、余裕がなかったり、方法が分からなかったりして感情的に対応してしまう。親も困っているのです。まずは「たたかない、怒鳴らないと決めましょう」と伝えています。

 一度決めると、手を上げなくなったり、回数が減ったりするはず。「早くして!」「片付けなさい!」と怒っていると、親も疲れるし、後悔したりしますよね。子どももいつも怒られているとうんざりします。

 こうした負のパワーを使わないように、対応の引き出しを増やしておく。登園前なら「かばんを持ってきて」と具体的に伝えたり、「どっちの靴を履いていく?」と選択肢があったりすると、怒鳴らずに済むことが結構あります。知恵を使って、「しかる」を減らしましょう。

日本は容認派が多いが…脳に悪影響

―しつけなら多少の体罰や暴言も仕方ない、という声もあると思いますが。

 「軽くなら大丈夫」「痛い思いをさせないと子どもは分からない」と言う人はいます。公益社団法人「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」の調査(2018年発表)では、体罰を容認する人が約6割いました。

 しかし近年、体罰などが子どもの脳に悪影響を与え、学習意欲を低下させたり、大人になってから精神疾患を引き起こしたりする恐れがあることが分かってきました。最初は軽くても、暴力はエスカレートすることがあり、子どもはたたかれないように親の顔色をうかがうようになります。

 3歳半の時にお尻をたたかれていた子が、5歳半になると落ち着いて話を聞けない、約束を守れないなどの問題行動を起こすリスクが高いという研究結果もあります。

写真 高祖常子さん

 しつけとは本来、子どもが自律した社会生活を送れるようサポートすること。できないことへの罰として怒鳴ったり、たたいたり、ご飯を食べさせなかったりするのは違います。体罰や虐待はダメと分かっている人も、たたいたり怒鳴ったりすることは容認してしまう。でも、思い通りにいかない子を力で押さえたり、怖がらせたりする点は一緒ですよね。上からのコントロール型育児ではなく、子どもの横に立って応援していきましょう。

体罰禁止のスウェーデンを訪れて

―体罰禁止を訴える活動を始めたきっかけは。

 2010年に育児情報誌の取材で、世界で初めて子どもへの体罰を禁止したスウェーデンを訪れました。たたかないことが当たり前の社会になっていて、子どもの自主性や意見を尊重していました。常に「君はどうしたいの?」と声をかけ、意思表示をさせるんですね。

 もちろん、やってはいけないことには「ダメ」と言います。しかし、子どもの権利を守るという姿勢が徹底してあり、子どもの自己肯定感も高いのです。

 スウェーデンも1960年代は体罰を用いる人が9割以上で、コントロール型の子育てが一般的でした。子どもの虐待死事件を機に、1979年に子どもへの体罰禁止を法律で定め、啓発をして社会が変わったのです。今、体罰を容認する人は数%まで減っています。

―日本でも昨年4月、親権者による体罰禁止を盛り込んだ改正児童虐待防止法などが施行されました。

 2018年に東京都目黒区で5歳の船戸結愛(ゆあ)ちゃんが、翌2019年に千葉県野田市で小学4年の栗原心愛(みあ)さんが、「しつけ」と称した親からの虐待で亡くなった事件が大きかったと思います。法改正を受け、厚生労働省の検討会によるガイドラインには「不快感を意図的にもたらす罰はどんなに軽くても体罰」と書かれ、親だけでなく全ての人にこうした体罰が許されないと明記されました。日本も世界で59番目の体罰全面禁止国になりました。

 私は第一子の長女を生後3カ月で、先天性の心疾患で亡くしました。生まれてからずっと病院の保育器を出られず、抱っこも1回しかできなかった。生きたくても生きられない命がある一方で、せっかく生まれてきたのに、虐待で亡くなる命もある。亡くならないまでも、傷つきながら育つ子がいてほしくありません。

「…ねばならない」に縛られる親

―親や、周囲の大人ができることはありますか。

 子育て中の親には、コロナ禍の外出自粛や在宅勤務で、いつも以上にイライラする人もいるでしょう。地域の子育て広場や公園が閉められ、居場所を失ったと感じる人も。オンラインの催しに参加したり、友人に電話したりなど、親子だけではない「場」を積極的に持つといいと思います。

 昨年、母親のモヤモヤした気持ちを吐き出すオンラインイベントを開催しました。年子の子どもがギャーギャーと騒ぐ自宅で仕事と家事をしている参加者も。家の中に保育所と会社の機能は両立しないし、一人で両方はできません。親は保育士ではない。私が「そんなの無理!」と言うと、参加者から歓声が上がったんですね。「~ねばならない」という考えに縛られている親も多いと感じました。

 現状を「無理」と認め、助っ人を呼ぶ、電化製品に頼るなど手間を減らす方法を考える。音楽を流して親子で一緒に体操し、「楽しかったね」と思えたらもう「はなまる」。「出前で済ませちゃったけど、その分、子どもと遊べた」とプラスにとらえることです。

 また、子育てを親だけのものにしないよう、直接子どもに関わっていない周囲の大人の言動が大切です。電車などで泣いている赤ちゃんや幼い子を見かけたら、真顔で振り返るのではなく、「振り向くときはにっこり」と勧めています。さらに「大変だよね」と一言かけてくれる人がいると、親はホッとしますよ。

―親子関係が変わると社会も変わると指摘していますね。

 虐待や介護殺人、DVなど家庭内の暴力や殺人の報道が絶えません。若者の自殺死亡率は他国と比較しても高い傾向にあります。背景に親子や家庭内のコミュニケーションがうまく取れていない現状があるのではないでしょうか。

写真 高祖常子さん

 たたかれたり怒鳴られたりしていると、子どもも「どうして分かってくれないんだ」「どうせ私なんて」と思いがち。気持ちを尊重してもらえない経験が積み重なり、自己肯定感が低くなったり、人と異なる意見を言いづらくなったりすることもあります。手を上げた親も自己嫌悪になったりして、親子ともに生きづらくなってしまう。親子の関係性がよくないと、暴力にもつながりかねません。

 出産前で比較的時間があり、学ぶ意欲のある妊娠中の親とパートナーに、子どもへの向き合い方を力を入れて伝えています。「たたかれて育ったけど、話を聞いて手を上げないと決めた」と話す父親もいました。

 親子のコミュニケーションがより良くなれば、家庭にいることが居心地よくなり、子どもも自信を持って自分らしく生きられます。「たたかない子育て」はその一歩。体罰禁止が法律に入ったことを広め、子育てを皆で支える社会、文化に変えていきたいですね。

高祖常子(こうそ・ときこ)

 1960年、東京都出身。東京家政大短大を卒業後、リクルートで学校・企業情報誌の編集に携わる。妊娠を機にフリーに。2男1女を育てながら、全国13万部発行の育児情報誌「miku」編集長を14年務めた。現在は育児誌などの編集や執筆のほか、子どもの虐待防止と家族の笑顔を増やすため「たたかない子育て」講座の講師として活動する。厚生労働省「体罰等によらない子育ての推進に関する検討会」委員として、同省ガイドラインやリーフレットを作成。認定NPO法人「児童虐待防止全国ネットワーク」理事、NPO法人「ファザーリング・ジャパン」理事。著書に「イラストでよくわかる感情的にならない子育て」(かんき出版)など。

インタビューを終えて

 「たたかない、怒鳴らない」。ダメだと分かっていても、わが子だとつい…。2児を育てる私は、高祖さんを取材しながら耳が痛いことばかりだ。でも、そんな「ダメ親」も高祖さんは否定せず、励ましてくれる。

 昨年末、東京都葛飾区で講師に立つ様子を見せてもらった。「赤ちゃんが泣きやまないとイライラするよね」「でも頑張っているよ」「つらい時はちょっと先を考えるの」。親に寄りそい、共感し、前向きにさせる穏やかな語り口が印象的だった。

 コロナ禍で、しんどい親子もいるだろう。肩の力を抜き、頼れるものは使い、怒らずに過ごす日を増やしたい。「はなまる」をもらえるように。

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