親をエンパワーしなければ虐待事件はなくならない 子どものトラウマ回復に取り組む森田ゆりさん 「肯定の心」引き出す大切さ

木原育子 (2022年1月3日付 東京新聞朝刊)
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虐待に至った親との関わり合いでエンパワーの必要性について語る森田さん

トラウマ抱える人向けのヨガプログラム

 「息をゆっくりと吐きます。呼吸が海の波の音とシンクロします」

 2021年11月、大阪府高槻市の交流センター。森田ゆりはいつものように、集まった生徒15人に向き合っていた。森田が考案した「アロハ・ヒーリング・ヨーガ」のクラス。10年前、米ハワイ島でヨガを学び、虐待や家庭内暴力(DV)のトラウマ(心的外傷)を抱える子どもや大人たちにも取り組みやすいプログラムを作った。

 海にまつわるポーズを多く取り入れ、人間の歩行の要の「大腰筋」をイメージしながら呼吸する。「トラウマの身体反応はフリーズすること。内臓や生殖器を守ろうと胎児の形に凍結する時に働くのが、この大腰筋です。トラウマを記憶する筋肉とも言われています」

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大地とのつながりを感じながら体を動かす「アロハ・ヒーリング・ヨーガ」=大阪府高槻市で

 「身体がぽかぽかする」「全身の活力がみなぎる感じ」。70分のクラスが終わると、森田の周りには参加した女性たちが明るい声で駆け寄った。

海外に飛び出し、見つけた「肯定の心」

 森田は横浜生まれ。早稲田大の学生だった1971年、成田空港建設に反対する三里塚闘争の少年行動隊支援に加わった。「あのころは、世の中の欺瞞(ぎまん)や不正への怒りだけだった。怒りをバネに、社会を否定して生きていた」

 卒業後も自問自答の日々は続いた。「私はいつかバランスを失ってしまう。ひまわりの大輪のような肯定の心がほしい」。それはきっと日本では見つけられないと、卒業から3年後、世界へ飛び出した。行き先は知らない言語のなるべく遠い国。中米だった。

 メキシコに住んでいたころ、豚やニワトリも同乗する「三等バス」に乗って、グアテマラを旅した。

 政情不安定とは聞いていた。密林の真っただ中を走行中、武装した兵士2人がバスに乗り込んで来た。兵士は森田だけに銃を向け、「バスから降りろ」。銃で小突かれバスから押し出されるのを必死に抵抗した。と、その時だった。突然、バス後方からニワトリがケケケケーと騒がしく通路を駆け抜け、子豚がダダダダッと兵士に突進した。

 救ってくれたのはマヤ・インディオの少年だった。とっさの機転で、連れていたニワトリや子豚を興奮させ、一気にかごから放ったのだ。「グラシアス」(ありがとう)と森田。すると彼は、太陽に向かうひまわりのように顔を輝かせ、くったくなく笑った。

 「あの笑顔を見た時、『今ここ』の生命力に圧倒され、涙が出て仕方がなかった。探し続けた自分のいのちを受け入れる『肯定の心』を見つけた瞬間だったと確信している」

「女たちの運動」からエンパワメントへ

 2年の中米生活を終え、帰国することになった。その途中に立ち寄った米サンフランシスコの路上で、偶然、北米インディアンの人たちの祭りに誘われた。

 その出会いで人生は変わった。「生きとし生けるいのちの全てがつながっている生命観に、ものすごく共感したんです」。目先の利益に惑わされず、7世代先の子どもたちの健康を最優先して方針を決める「叡智(えいち)」にも感動した。

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インディアンの儀式に参加し、子育てしていた森田ゆりさん(前列右から2人目)=1980年ごろ撮影(森田さん提供)

 帰国予定を変更し、奨学金制度を使って大学院に進学。そこで出会った米国人と1979年に結婚した。

 米国で暮らしながら、ある時、夫の暴力から逃れようとして夫を殺してしまったインディアンの女性の裁判を支援する「女たちの運動」に参加した。そこで、「エンパワメント」という思想と方法に出会った。

 人は誰もが素晴らしい力を持って生まれてくる。ただ生きているだけで、とても尊い存在。そんな内に持つ力を互いにどう響かせ合うかという関係性だ。

 「目を開かれる思いだった」。学生時代から探し続けた、いのちの肯定の生き方そのものと言ってよかった。インディアンの生命観にもグアテマラで出会ったインディオの少年のひまわりの笑顔にもつながった。

法から抜け落ちた「親をケアする視点」

 その方法は、抑圧された人たちが主体性を取り戻していくプロセスにも重なる。カリフォルニア大学で、エンパワメントをベースにした多様性人権プログラムを開発し、大学の教職員研修を担った。

 1997年に日本に帰国し、関西に「エンパワメント・センター」を設立。企業や行政を対象に研修活動を始めた。米国発の子どもへの暴力防止プログラム「CAP(キャップ)」を日本に紹介し、指導者養成も続けた。

 2000年の児童虐待防止法制定の際には、国会議員向けの研修や参考人意見陳述などで深く関わった。

 成立した法には、児童相談所が虐待家庭にどう介入するかは盛り込まれたものの、森田が主張してきた「虐待に至った親たちをケアする視点」は抜け落ちた。

 「怒りは仮面。虐待した親は、今までの人生で他者から尊重されなかった痛みを、怒りの形で子どもに爆発させる。怒りの裏側に張り付く深い悲しみに向き合わなければ、その親は前に進めない」。翌01年、虐待に至った親の回復を支援する「MYTREE(マイツリー)プログラム」を開発。親たちの「再出発のとりで」となってきた。

家庭の問題リスクを探すばかりでは…

 それから10年後、ハワイで、ヨガに出会った。自身を癒やし、自然との共生を大切にするヨガは、どんな人の内面にも心地よく届き、再生のエネルギーを引き出してくれる。

 児童養護施設や少年院などでヨガを教えて8年目になる。その数、優に800人を超える。「癒やしとはバラバラになった自分の全体性を取り戻すこと。瞑想(めいそう)とヨガを続けることで心と身体がつながり、大地ともつながり、子どもたちの心身が安定していくの」

 虐待死事件が報道されるたびに児相の介入機能強化が指摘される。だが、森田は「児相は、その家庭の問題リスクを探すばかり。でもそれは警察と同じ視点で、福祉ではない。この家庭には今、何が必要かというニーズに目を向け、親をエンパワーしなければ虐待事件はなくならない」と説く。「逆説のようだが、人は誰でも、自分を受容できた時に変わることができるのです」(文中敬称略)

児童虐待防止法とは

 2000年に議員立法で成立。裁判所の許可状で福祉関係者が家の中に強制的に入る「臨検」を認めた。子どもの安全確保に必要な場合、警察署長への援助要請も義務づけられている。2020年度の児童相談所の虐待相談件数は20万5000件余で過去最多。半数以上が警察からの通告だった。内容別では、子どもの目前で配偶者らに暴力を振るうなどの「心理的虐待」が12万件余で全体の6割近くに上る。

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  • めい says:

     私は、虐待の連鎖が続いた家庭で育った。父は祖父から、母は兄からの虐待経験があり、私は両親から心理的暴力、兄から性的虐待を受けた(これは、法的にはネグレクトのようだが、被害者にとっては虐待そのものだ)。私は物心ついた頃から、両親の言葉の暴力を受けた。兄からの長年の性被害後、沈黙と孤独の約8年間、両親に事実の一部を訴えたが、両親は私に我慢を強要、口封じをし私が変わる事で崩壊した家庭を取り繕うとしたが無駄な努力だった。当時、相談窓口など全くなかった。父は誰かに相談したのか「子どもに罪はない」と頑なに兄の見方になり始めた。私は実家に帰れない日々が何十年か続いた。今でも、被害者の私に責任があるかの様な発言をしている。私にとっては、蟻地獄のような人生だ。真実を訴えれば訴えるほど、私は苦悩の穴にはまっていき、兄からの謝罪もなく、私は嘘つきのままだ。
     私は、全ての性被害児・者への加害児・者の『永久接近禁止法』の成立を提案したい。
     森田ゆり氏の「人は自分を受容出来た時にかわれる」と言う意味をもう少し深く知りたい。
     児童虐待は、この30年間、増加し全く減少していない。つまり、オレンジキャンペーンを始めとする政策は完全に失敗した。森田ゆり氏の提案する虐待加害をした親のケアをする仕組みや、児童虐待禁止法を成立させて、圧倒的な力のある大人が密室で弱い力の子どもを思い通りに捩じ伏せたり、力のある大人が正しいと子どもに強要して、被虐待児が長期的に深い心の傷を抱えて、生きずらさをかかえなくても良い制度、つまり被虐待児へのケアも丁寧にする必要があると思う。
     それでも、『虐待は必ずしも連鎖しない』とアメリカの調査である、との講演会を聞いた事がある。私は、被虐待児だったが、妹を虐待した事はない。また、子どもに関わる仕事をしているが、子どもに暴力を振るう、暴言は断じてあってはならない、と考えている。逆に自身の経験を生かして、悩みを抱えている子どもの聞き役にでありたい、と強い思いを持って日々接している。それは、自分の傷ついた心を自主的にケアをし続けて来たからだと思っている。
     社会的に周知されている被虐待児に対するケアも義務化される必要があるが、私の様に「自覚的被虐待児」も、要請すれば公的費用でケアが出来る制度があれば、圧倒的に弱い子どもが虐待で傷つく事が少しは減少するのではないかと思っている。

    めい 女性 60代

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