心臓移植を待つ子と家族のために長期滞在施設を 大病院の近くにいることを求められる地方在住者の重い負担

五十住和樹 (2022年12月1日付 東京新聞朝刊)

病児のきょうだいもゆったり泊まれる部屋もある「ぶどうのいえ」=東京都文京区で

 臓器移植法の改正で15歳未満からの臓器提供が可能となった2010年以降、心臓病の子どもへの移植が少しずつ進んでいる。ただ、入通院先は都市部の大病院が大半で、近くに部屋を借りて移植を待ち、治療を続ける地方在住者は少なくない。経済的、精神的な負担軽減のため、安価で利用できる滞在施設の拡充を求める声が高まっている。

草分け「ぶどうのいえ」に救われて

 重い病気の子どもが家族と滞在できる施設の草分け的存在、東京都文京区の「ぶどうのいえ」。東京大病院などに近く、1995年の開設から今年10月までに延べ約7万8000人が利用した。認定NPO法人が運営。冷蔵庫やテレビなどを備えたシングルやツインなど11室があり、キッチンや物干し場、談話室、プレイルームなども設けられている。現在の利用料金は1日当たり1室1500~3000円だ。

 2008年に米国で心臓移植を受けた当時4歳の長男京佑君と、帰国後に利用した群馬県富岡市の北村真紀子さん(54)は「穏やかでくつろげる場所」と話す。京佑君が11歳で亡くなるまで、帰国直後の数カ月と、採血や検査で都内の病院へ通うたびに数日間滞在。自宅との二重生活は経済的に苦しかったが、安い利用料と、年の近い2人の姉も一緒に泊まれたことで救われたという。「ボランティアの人にかわいがってもらい、同じ境遇の子もいて息子が大好きな場所だった。親同士も情報交換して助け合った」と振り返る。

寄付頼み ボランティア確保も課題

 日本ホスピタル・ホスピタリティ・ハウス・ネットワーク(東京)によると、こうした滞在施設は現在、約70団体が全国120カ所以上で運営している。行政からの補助金はなく、小規模で運営資金を寄付に頼る施設が多い。ボランティアの確保なども課題だ。利用期間に制限がある施設もあり、心臓移植まで平均約3年4カ月待つ現状では、使いにくい面もある。

 心臓移植を待つ人は現在約900人おり、うち15歳未満は約60人とされる。多くが補助人工心臓を装着し、移植を待つ間と、免疫拒否反応が出やすい移植後6カ月は病院の近くに住むことを求められる。付き添う人も必要で、日常生活や食事、人工心臓の扱い方など病院の指導を受ける。

病院には内緒で生活費を稼いだ親も

 NPO法人「サポートハウス親の会」(大阪府吹田市)代表理事の梶原早千枝さん(68)は、大阪で移植を待つ多くの子どもたちと家族を支援してきた。高知県に住む拘束型心筋症の6歳男児の母親は夫と離婚し、下の子を実家に預けて大阪へ。男児の学校の授業中は隣の部屋で待ち、放課後は常に付き添いを求める病院に内緒で働いて生活費を稼いだ。男児は4年後に臓器提供を受け、中学生になって地元へ戻った。

 また、島根県の男児は10歳で母親と来阪。滞在中の5年間、父親は地元に残って飲食店を営みながら下の子の世話をし続け、「体はボロボロだけど子どものことを思うとやり抜くしかなかった」と話したという。

吹田市に新施設構想 寄付を受付中

 吹田市では現在、大阪大病院などの医師らが、心臓移植などを必要とする子どもと家族らが長期滞在できる施設の建設構想を進めている。

吹田市の滞在施設の完成予想図(一般財団法人ハートウォーミング・セイシン提供)

 篤志家から土地の寄贈を受け、数億円という建設費の寄付を募集。利用料は月5万円以内に抑える方針で、構想に参加する梶原さんは「困窮している人も多いなど、移植を待つ患者・家族の現状が知られていない。滞在施設があれば頑張ろうと言える」と話す。

 建設費寄付の詳細は一般財団法人「ハートウォーミング・セイシン」のホームページで説明している。ぶどうのいえなど既存施設も寄付やボランティアを募っている。

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