児童虐待の相談対応件数は実態より多かった 関東8都県市で独自解釈が横行「数字は意識の高さの表れ。虐待対応バブルの状況」

木原育子 (2023年10月4日付 東京新聞朝刊)
 こども家庭庁が先月発表した、児童相談所(児相)の2022年度児童虐待相談対応件数で、虐待ではない「非該当」のケースも計上していた自治体が、児相がある関東の都県、政令市計12自治体のうち8自治体あることが東京新聞の調べで分かった。外部からの相談で家庭訪問したが、虐待でないと分かった事例などで、東京都では全体の1割程度に上るという。国は非該当は計上しないとしてきたが、自治体が独自に解釈した件数が長年報告されていた。

表 2022年度の児童相談所の虐待相談対応件数

背景にあるのは、国の基準のあいまいさ

 相談対応件数は児童虐待の現状を測るバロメーター。職員の配置基準にも用いられ、統計開始から32年連続で増えている。国の基準のあいまいさが背景にあり、虐待防止施策の根幹が揺らぐ可能性が出てきた。

 8自治体は東京都、神奈川県、埼玉県、横浜市、さいたま市など。

 東京都の場合、「非該当」も「身体的虐待」に全て組み入れて報告。長年の慣例で、毎年度2000~3000件あったという。担当者は「件数を多くしたい思いはなかった。虐待がなかったとしても、児相が対応して動いたことに変わりはない」と説明する。

 一方、別の自治体の担当者は「数字は児相の意識の高さの表れ。上がっても悪いことだとされず、少しでも対応して上げていた。虐待対応バブルの状況」と打ち明ける。

こども家庭庁「いつからか分からない」

 この統計を巡っては、総務省が10都道府県を抜粋し、対応件数を調査した結果、「適切な報告を行っている都道府県はなかった」として、2012年に厚生労働省に適切な把握と公表を勧告した。厚労省は翌年に記入要領を見直し、参照して報告するよう自治体に求めているが、非該当の直接的な記述はなく、徹底されなかった。

 取材に対し、厚労省統計企画調整室は、こども家庭庁発足を理由に「所管が変わった話をこちらが勝手に答えられない」と回答。こども家庭庁虐待防止対策課の二ノ宮隆也課長補佐は「問題があれば再考していかなければならない。いつからこのような状況だったか詳しいことは何も分からない」と話している。

 児童虐待に詳しい立命館大の野田正人特任教授(児童福祉論)は「相談対応件数は、児童虐待に関する基礎的な統計だ。児童福祉司を何人配置するかの基準にもなり、あいまいな運用は水増し請求ともなりかねない。抜本的な見直しが必要だ」と指摘する。

児童虐待相談対応件数

 児童相談所が相談を受け、援助方針会議の結果、指導や措置を行った件数。1990年度の統計開始から32年間、一度も減少することなく過去最多を更新し続けてきた。2022年度(速報値)は21万9179件(前年度比1万1510件増)。子どもの前で家族に暴力を振るう「面前DV」など6割近くを心理的虐待が占める。警察からの相談件数が半数以上。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年10月4日

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