働く祖父母世代に「孫休暇」 企業や自治体が導入、若い親世代も「休みやすくなる」効果

河野紀子 (2024年2月21日付 東京新聞朝刊)
 孫の世話や看病などのために仕事を休むことができる「孫休暇」の制度が、企業や自治体に広がっている。定年延長で働く祖父母世代が増える中、仕事と孫育ての両立につなげる狙い。上司が孫休暇を取って育児に関わることで、若い親世代も育児のために休みやすくなるといった効果も出ているという。
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孫休暇を取り、生後間もない孫の世話をする額賀ゆき子さん=東京都内の自宅で(本人提供)

出産後、里帰りした娘のために

 「生まれたばかりの孫は娘にそっくりで、とにかくかわいい。育児に家事に大忙しだったけれど、3世代で過ごす貴重な時間だった」。第一生命保険(東京)で働く額賀ゆき子さん(61)は昨年9月、離れて暮らす長女(31)が第1子の女の子を出産した後、都内の自宅に里帰りした日々を振り返る。

 同社は2006年、全国に先駆けて「孫誕生休暇」を創設。孫の誕生に合わせた3日間の特別公休制度で、土、日曜などを合わせるとさらに長く休みが取れる。

娘がコロナ感染 夜中も孫をみる

 額賀さんは、さらに夏季休暇とテレワークを活用し、長女と孫と2週間過ごした。「私も産後に母に手伝ってもらって助けられた。娘のときは私が力になろうと思った」

 ただ、2日目に長女が高熱を出し、自宅にあった抗原検査キットで調べた結果、新型コロナウイルス感染が判明。長女の体調はもちろん、生後間もない孫にうつったらどうなるか、不安が募った。出産した病院に連絡し、その指示に従い、長女は授乳以外は別室で過ごすように徹底。額賀さんは3時間おきに起きて泣く孫を抱っこし、おむつ交換や沐浴(もくよく)、夜泣きへの対応など育児を一手に担った。長女のために栄養バランスの良い食事の支度や掃除、洗濯も。「夫は単身赴任中で私しかいない。長女と孫の命を守るために必死だった」と振り返る。

 3日後に長女の熱が下がり、ようやくひと安心。長女からは「お母さんがいなかったら、とても乗り越えられなかった」と感謝されたという。

遠方でも孫育てに関わりやすく

 同社人事部の担当者は「遠方でも孫育てに関わりやすくなったと好評で、男女問わずに取得者は多い」と説明。22年度は1500人超が利用した。育児で休むことへの理解が広がったことで、男性社員の育休取得率も上がっているという。

 国も導入を後押しする。仕事と育児の両立のために企業がつくる行動計画の参考とする国の指針に、孫休暇の創設を盛り込んだ。

 こうした動向もあり、近年は大手食品メーカー「江崎グリコ」(大阪市)や、おきなわフィナンシャルグループ(那覇市)、九州電力(福岡市)などが孫休暇を取り入れた。企業だけでなく自治体にも広がり、昨年には宮城県が都道府県レベルで初めて導入。神奈川県も今年4月から同様の取り組みを始める。三重県桑名市も今年1月から、小学生以下の孫の看護のために年5日の休暇を取得できる制度を創設した。

 孫休暇の広がりについて、NPO法人孫育て・ニッポン(東京)理事長の棒田明子さん(55)は、定年延長で働く祖父母世代が増えたことが背景にあると指摘。「孫育てのために離職する人もいる中、孫休暇はないよりはあった方が良い。その上で、社会全体で子育てをしていく仕組みづくりが今後も必要になる」と話している。

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