都知事選で考えたい教員不足 東京の公立小の実態は?「200件電話して見つけた代替教員が1カ月で退職」人手確保へあの手この手

(2024年6月23日付 東京新聞朝刊に一部加筆)
 全国の学校で教員不足が深刻だ。東京都知事選(7月7日投開票)でも、子どもの教育や子育て支援策が活発に議論されている。産育休や病気休職などで教員が学校を離れても、代わりの人材を確保できない。都内の公立小では年度初めの今年4月時点で約20人の欠員が生じるなど、厳しい状況が続く。都教育委員会や現場の先生たちは人材確保だけでなく、負担を減らして離職を防ごうと奔走する。
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児童たちと笑顔でふれあうエデュケーション・アシスタントの増子光世さん(左)=東京都江東区の第三砂町小で(一部画像処理)

心強い「アシスタント」が担任を補佐

 午前8時半すぎ、江東区立第三砂町小の1年生の教室で、担任の安藤優主任教諭が児童の出欠を取る。後方ではエデュケーション・アシスタントの増子光世さんが、児童の連絡帳を確認していた。

 1時間目は体育。増子さんは体育館へ移る28人の児童に付き添う。動かない子には「本をしまって。行こう!」。担任の安藤教諭と一緒に縄を回して大縄跳び。「せ~の!」と児童の背中を押すと「跳べた!」と笑顔が見えた。

 4月から週4日、朝からの約8時間、4クラスある1年生の担任業務を補佐する。安藤教諭は「離席する子、トイレに行ったまま帰ってこない子、提出物を出さない子…。こうした子の対応を任せられるので心強い」と語る。

経験者採用枠の設置、メンター制導入

 エデュケーション・アシスタントは東京都が教員の負担軽減を目的に、2022年度に江戸川区で導入した。2023年度に江戸川区のほか、墨田区、調布市、東久留米市、東村山市の5区市に拡大。本年度から全公立小1268校に1~3年生の担任補佐として配置できるよう、約47億円を予算化した。

 都のホームページでは、「教員免許は不要」と案内している。採用は市区町村の教委が担い、業務内容は学校側が決める。人材が見つからず、配置できていない学校もある。

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体育の授業で担任の先生(手前左)と大縄を回すエデュケーション・アシスタントの増子光世さん(一部画像処理)

 東京都教委は本年度、経験者採用枠の設置や、小学校の新規採用教員が先輩に相談できるメンター制度の導入など、教員確保策を拡充した。背景には、小学校での35人学級化などで必要な教員数が増える一方で、病気休職や退職者が後を絶たず、教員不足が常態化している現状がある。

昨年度内に「欠員」が160人に倍増

 都教委によると、都内公立小の教員の「欠員」は2022年4月時点で約50人、2学期が始まる同年9月には約130人に増えた。昨年度は4月時点で約80人、9月に約140人、3学期が始まった今年1月時点では160人と倍増した。

 代替教員らを探しやすくするため、昨年7月からは採用情報マッチング支援システムも導入した。都教育庁人事部選考課の石毛朋充課長は「教員を増やす、減らさない、負担軽減が3本柱。さまざまな方法で教員確保と働きやすい職場づくりを進めている」という。

面接後に音信不通 副校長が担任も

 だが、現場の危機感は増している。都内の公立小の男性校長(50)は、教科ごとの担任制を進めて負担を減らすほか、学校ホームページで補助スタッフらを募るなど、確保に努めている。別の学校の副校長だった3年前、産休に入る担任教諭の代替が見つからなかった苦い経験が理由だ。

 当時、代替教員として都に登録された「臨時的任用教員」名簿の片っ端から約200件、電話をかけた。定年退職した女性教諭が見つかったが、新型コロナウイルス禍のオンライン授業に対応できず、1カ月ほどで退職。求人に応募してきた40代男性教諭は、面接後に音信不通になった。保護者に説明して3カ月、自分で担任をしながら副校長の仕事をこなした。

 東京都知事選では、教員の負担軽減などを掲げる候補もいる。「待っていても人は来ない。教育の向上のため、人材確保へのアンテナを高くしておかないと」と校長が語る。現場の願いは「子どもの教育に集中できる環境にしてほしい」だ。

教員不足

 文部科学省の2021年5月1日時点での調査では、全国の公立小中高校などで計2065人の教員が不足。文科省は今年1月にも、各都道府県などに対応強化を要請した。東京都内の公立校では2023年4月時点の欠員が約80人。年度末にかけて増えて、2024年1月時点で2倍の約160人に。2023年度の新規採用教員3472人のうち、1年以内の退職者は169人(4.9%)と過去10年で最も多い。例年、教員の約1%が精神疾患で休職している。

◇文部科学省の「教師不足」に関する実態調査の結果はこちら

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2024年6月23日

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  • 匿名 says:

    いつ欠員が生じて声がかかるかわからない。次の仕事があるかどうかも分からない。不安定な状態で人が集まらないのはわかります。

    教員の定数は決まっているので、簡単には増やせない。定年退職者はそのあたりの問題はクリアできそうです。

    せめて、退職直後の人が全力で勤務し役に立とうと思えるような環境があれば少しは解決するかもしれません。パワハラやモラハラの経験があると、電話がかかってくるだけで嫌ですね。

  • 匿名 says:

    大阪は対策されているようですよ。
    欠員を見込んで採用し、はじめは担任を持たず順次補充。
    臨時講師は採用試験1次免除など。

  • 匿名 says:

    休業から途中復帰した人は、年度内、臨時の人の補助にあたれば良いと思います。臨時の人に次の仕事が待っているならそちらが優先ですが。

  • 匿名 says:

    免許があり働けるのに在家庭という人はいません。産育休の希望は聞き取りをすれば把握できるはずです。欠員を見込んで4月から雇用し、欠員がない間は加配として働いていただき、順次正規雇用していけばよいと思います。

  • Y.N says:

    かれこれ10年以上、臨時的任用教員をしています。雇用の調整弁で都合の良いときに呼ばれ、用が無くなれば捨てられる存在です。

    倍率の低い時代でしかも、ゆとり教育にどっぷり浸かったこれからの若者が臨時的任用教員をしたい、というとは私は思えません。

    Y.N 男性 30代
  • in says:

    そもそも、採用に応じない人たちが登録できる制度の改善も必要。文科省がICTの活用をうったえる時代に、学校長が当てずっぽう的に電話で探す非効率なやり方もいかがなものか。あらかじめ教育委員会が希望地域、勤務開始時期、勤務条件等をアンケートして配置できないのだろうか?

    それと教員免許取得者の多くはペーパーティーチャー(教員にならない)で、数百万人単位で存在している。教育委員会はペーパーティーチャーの実態を把握しているはずで、年一回、教員になる気がないか免許取得者に問い合わせるなど、積極的に働きかけるべきではないか。もちろん待遇の改善も必要で、手をこまねいている場合ではないと思う。

    in 男性 無回答

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