会話を楽しみ 博多ラーメン食べる 行き先も移動も息子に任せた親子旅〈清水健さんの子育て日記〉74

(2025年10月29日付 東京新聞朝刊)
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屋台で博多ラーメンを食べる息子

清水健さんの子育て日記

このバスで間違いない!

 屋台に2人で座った福岡の夜。「どこから来たの?」と店主が息子に声をかけてくれる。「大阪から来ました!」「ソフトバンクホークスの応援です」「お父さんと2人で旅行なんです!」

 そんな会話を楽しみながら、博多ラーメンを食べる。初めての屋台の高揚感に、長い距離を歩いた疲労も加わり、一つの質問に二つ三つの言葉を返す。

 みずほペイペイドームでソフトバンクホークスを応援する以外は、予定を決めず、行き先も移動もほとんどを息子に任せた親子旅。携帯の地図アプリを頼りに「このバスで間違いない!」と何度も確認して乗り込む。それでも不安そうに景色を眺め、降りるバス停が車内アナウンスされるまで気が気でない。慎重派の息子らしい。

 宿泊先も現地で決定。チェックイン時間の確認を忘れ、大きな荷物を持って長時間の移動もあったけれど、野球観戦、太宰府天満宮、ラーメン、水炊き、そしてなぜか映画鑑賞まで。

 生意気を言うことも多くなった小学5年生だけれど「ここでいい?」「場所、間違ってないよね?」と聞かれるたび、頼られることのうれしさを感じました。

寂しさの中にも、幸せが

 先日、小学校では陸上記録会があり、大会に向けて親子で練習、公園で走りました。僕は高校時代、短距離選手だった元陸上部。なんとなく「お父さんは速い」と思ってくれているのか、スタートや腕の振り方など、最近では「もう分かってるよ!」なんて態度をみせることも多くあるけれど、こんな時は素直にアドバイスを聞いてくれます。

 本番。前傾姿勢から上体を徐々に起こしてスピードにのっていく。頭の中のイメージと体の動きはまだ一致していない。それでも僕の言葉を守ろうとしている姿がうれしい。

 周りを見ると、子どもたちを応援する多くのお父さんとお母さんの姿。幸せな光景が広がっていました。その中、今年はなぜか少し寂しさを感じてしまった。僕の横には、誰もいない。こんな気持ちになったのは久しぶり。改めて「いない」現実を突きつけられる。

 これはつらい。思わず下を向いてしまう。温かい光景を「うらやましい」と思ってしまったそんな自分にまた落ち込む。でも、これは決して悲しい話じゃありません。福岡の旅も、こうしたイベントも、息子には母親がいない。これが僕たちの現実です。寂しさの中にも、幸せがあるんだと改めて気づく。そして、こうやって素直に書けることが、息子の母親がいなくなって10年。その時間を確かめさせてくれます。

清水健(しみず・けん)

 フリーアナウンサー。11歳の長男誕生後に妻を乳がんで亡くし、シングルファーザーに。

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  • says:

    孫とひとつ違いの清水健さんの息子君の成長が毎回の楽しみです。成長と共に反抗心も持って来たと相談を受けます。それは親だから甘えて良いと思っているんだけど私の子育て中には分からなかった事を母娘で話しています。息子君はしっかりされていて、他と比べる事のない子育てを実践されている清水さんを尊敬します。また来月は日本シリーズのお話しが楽しみです。毎回ありがとうございます。

    空 女性 60代
  • 黒木 says:

    以前淡路島に来られた時に娘2人とお会いさせていただきました。いつも応援しています。子供さん大きくなられましたね。頼もしいですね。

    黒木 女性 60代

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