元ヤングケアラーの訴え 家族を介護の主体としない仕組みを 11歳から母の世話「自分のことを考えてる余裕なんてなかった」
体力の限界 授業中に寝てしまう
シングルマザーの母親と幼いころから2人暮らし。2001年6月、母親が自転車で通勤途中に信号無視の車にはねられ、頸椎を損傷。両手足に障害が残り、車いすの生活になった。
頼れる親戚はおらず、当時11歳だった沖村さんが日々の家事のほか、母親の入浴やトイレ、病院などへの移動に必要な介助を担った。ヘルパーが来るのは平日朝から夕方。「それ以外はご家族がやってください、という状態だった」。体力の限界が来て授業中に寝てしまうことも多くなった。
そんな状況に違和感を感じていた。「どうして私は尊重されないんだろう」。中学では弁当が必要だったが、自分で作る余裕もなく、コンビニのスティックパン1、2本で済ませていた。親が手作りした弁当の彩りに文句を言う同級生もいる中、周りとの環境の違いを感じ、卑屈な気持ちを抱えるようになった。周囲から浮いているようにも感じ、いつしか教室で誰ともしゃべらなくなった。
世帯を支えるために…諦めた業界
転機になったのは高2の夏。交通遺児育英会の海外語学研修で、1カ月間、カナダに留学した。ホストファミリーたちは「あなたはどう思う?」と沖村さんの考えを常に尊重してくれた。「それまでは、母の良き介護者であることを社会に求められていて、自分の考えを押し殺していた。私個人の考えや発言を求められたのは初めてだった」。
沖村さんの家庭の事情を知っていたホストマザーはこんな言葉をかけてくれた。「あなたは他の子よりもいろんなことを早く経験している。他の子と自分は違うと感じることがあると思うけど、それは特別で素晴らしいことなのよ」。自信につながり、前向きに生きられるようになった。
大学では2級建築士の資格を取得。しかしインターン先の建築事務所で、母親の介護を理由に休んだことで「君にこの業界は向いていないんじゃないか」と言われ、諦めざるを得なかった。フリーターを経て、世帯を支えるために自営の必要があると、24歳で福祉サービス会社を起業した。現在はアルゼンチン出身の夫(38)と、昨年生まれた長女と暮らす。
実態調査を提案「支援につながれば」
「今、こうして生きているのが奇跡だと思う」と語る沖村さん。「進学し、社会に出ることができたのは交通遺児育英会の奨学金のおかげ」と感謝する。育英会のヤングケアラー実態調査は、昨年5月、沖村さんが同会を訪れた際に提案したことで実現した。
調査結果については「自身がケアラーであると気付いていない人もいるはずで、実際はもっと多いのではないか」とみる。沖村さんは育英会のほか、日本学生支援機構の奨学金も借りていたため、月5万円の返済が45歳まで続く。「返済がキャリアや職業選択に影響が出てくる場合もある。ヤングケアラーのことを広く知ってもらい、ケアラーへの給付や減免制度などの支援につながれば」と願う。
交通遺児らの2割がヤングケアラー
保護者が交通事故で死亡したり重い障害を負ったりしたため経済的に就学が困難になった子どものうち、家庭で家族の世話などをする「ヤングケアラー」が2割近くに上るとする調査結果を、交通遺児育英会(東京)がまとめた。同会は「できる範囲での支援策を早急に考えていく」としている。
調査は今回が初めて。今年3月、同会の奨学金を利用する高校生、大学生ら830人にインターネットで実施し、366人が回答した。
過去を含め、ヤングケアラーとして家族の世話をしていると答えたのは15.8%。高校生では16.7%、大学・短大生以上は15.9%だった。
世話の対象は「父親」36.2%、「母親」29.3%、「祖父母」10.3%。内容は外出の付き添いや家事、感情面のサポートなど。頻度は「ほぼ毎日」が高校生で64.7%、大学・短大生以上で24.4%だった。
周囲への相談の経験は、高校生の82.3%が「ない」と回答。理由は「家族のことのため話しにくい」「相談しても状況が変わると思わない」など。自身の健康状態について高校生の17.6%が「あまりよくない」と答えた。
2020年度の国の調査では、高校生のヤングケアラーの割合は4.1%。単純比較はできないが、今回の結果はその4倍近くに達する。育英会の担当者は「ワンオペの母親や、障がいがある両親の世話をしているケースが多く見られることが影響していると思われる」としている。
「2年以上ケアラー」は精神的リスク増
思春期に長期にわたりヤングケアラーの状態が続くと精神的な不調を抱えるリスクが高まる、との研究結果を、東京都医学総合研究所と東京大のグループが発表した。
グループは、2002~04年に生まれた都内在住の2331人に対し、10、12、14、16歳の4時点を追跡調査。家族の世話をする児童をヤングケアラーと分類し、メンタルヘルス不調との関係を分析した。
その結果、2年以上ヤングケアラーの状態が続いた児童は、ヤングケアラーでない児童と比べて、14歳時点の抑うつが2.49倍、16歳時点の自傷行為が2.51倍となった。短期的にヤングケアラーの状態だった児童にメンタルヘルス不調との関連はみられなかった。
都医学総合研究所の西田淳志・社会健康医学研究センター長は「ヤングケアラーの状態が長期化している人に対して、より優先的に、手厚い支援をする必要がある」としている。
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