「バウンダリー」を意識すると親子関係が変わる スクールソーシャルワーカーに聞く、中高生の悩みとの向き合い方
それは子どもの不安? それとも親の不安?
「バウンダリーは、心の皮膚のようなもの。『私』と『あなた』を隔て、『私は私、あなたはあなた』という違いを守るための目に見えない境界線だと考えて」と鴻巣さんは説明する。
バウンダリーは、日本では10年ほど前から注目されるようになった精神分析・心理学上の概念。「境界線」という言葉のイメージは「隔てるもの」だが、「皮膚と同じように、外からの刺激から守ってくれると同時に、皮膚を通じて温度や感触を確かめることもできる」。バウンダリーには、接する、つながる、距離をとる、区別する、嫌な刺激を遠ざける、といった役割もあるという。
生徒やその保護者の相談を受ける中で、鴻巣さんは「親と子の悩みの境界線が引けていないこと」が気になっている。例えば、学校に行けない子どもがいる。「『子どもが学校に行っていないことが不安』というのは親としての懸念。まず、子どもが何を不安に感じていて、どうしたいのかを考えてほしい」
子どもの側も「学校に行けなくて苦しい」「行けるようになりたい」と訴えるが、「本当にそうなの?」と聞くと「そうすると親が安心するから」と答える。「これは自分の願いではなく、親の願い。『私』を主語にして話せないケースが多く、親によるバウンダリー侵害が起こっている」
すぐ否定せず、子どもの考えをよく聞いて
なぜ親は子どものバウンダリーを侵害してしまうのか。鴻巣さんは「今の大人は、子どもたち以上にバウンダリーを侵害されて育ってきた人が多いから。そして、子育てには正解がないから」と分析する。
子どもの将来を心配するあまり、「子どもがどうしたいか」「何をしたくないか」より、親の期待が先に来てしまう。「親の不安で子どもを動かそうとしないで。自分の心配と子どもの不安を区別して」と鴻巣さん。親自身が体験していないことを子どもに対して実践するのは難しいが、「意識して子どもの気持ち・意見を聞くように心がけて」と助言する。
学校での悩みや、進路、スマートフォンや交流サイト(SNS)の利用ルール、予期せぬ妊娠。あらゆることに関して、「まずは子どもの意見や希望を聞いて」と語る。
「何かあったら言ってね」では子どもは話してくれない。「聞いてもいい?」「分からないから教えてほしい」と大人の側から聞き、「分からない」と子どもが答えたら、「じゃあ、また聞くね」。子どもの知識だけでは考えるのが難しそうな場合は、考え得る選択肢を全て示し、それぞれのメリット・デメリットを伝えて選んでもらうのも手だ。
赤ちゃんが泣いたら「どうしたの?」と対応する。転んで「痛い」と泣く子を、「痛くない、痛くない」と泣きやませようとせず、「痛いんだね」と受け止める。子どもが自分の意見を言えるようになるには、小さい頃からの「自分の意見を聞かれる体験」の積み重ねが大事だという。
今回の記事では、親子の「バウンダリー」についてのエッセンスをお伝えしました。短い記事では書ききれなかった内容を、連載で詳しく紹介します。親として、一人の大人として、心にグサグサと刺さる話ばかりです。
鴻巣さんは「『自分が子どもに対して言っていること、していることはバウンダリー侵害なんだ』と知っていただくだけでも意味があります」と話しています。まずは知ることから、一緒にはじめませんか。
連載目次【「バウンダリー」って? 親子に必要な境界線】
第1回 子どもの「バウンダリー」侵害していませんか?
第2回 バウンダリー侵害が起きる理由 子どもの不安より親の不安で動いていませんか(近日公開予定)
第3回 子どもを動かそうとしたら、バウンダリー侵害の黄信号(近日公開予定)
第4回 意見やノーが言えるようになるためには、「聞かれる体験」の積み重ねが必要(近日公開予定)
鴻巣さんは近著「わたしはわたし。あなたじゃない。」(リトルモア)でも、子ども向けに学校や家庭で起こるバウンダリー侵害への向き合い方を紹介しています。
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