無料の「新生児マススクリーニング検査」とは? 生後数日で先天性20疾患をチェック 有料で追加検査も

佐橋大 (2024年1月23日付 東京新聞朝刊)
 国内で生まれた赤ちゃんは、生後数日で、生まれつきの病気の有無を調べる検査「新生児マススクリーニング検査」を受ける。無償で受けられるこの検査の対象は、現在20疾患。一方、保護者が1万円前後の費用を負担し、対象以外の病気の追加検査を受けられる仕組みが広がっている。
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ライソゾーム病の検査準備をしている職員=岐阜市の岐阜県公衆衛生検査センターで

発症を防ぐために、早めの血液検査

 新生児マススクリーニング検査で調べるのは、フェニルケトン尿症やガラクトース血症など主に代謝に関わる疾患。酵素がうまく働かないために、体に必要な物質が作られなかったり、逆に多く体内にたまり過ぎたりして、発育不良などを起こす。特定の物質を減らしたミルクを飲ませるなど、疾患ごとに適切な対応を取れば、症状を抑えられたり、軽減できたりする。

 検査は、都道府県と政令市が実施。1977年に5疾患で始まり、今は20疾患に増えた。新生児から微量の血液を採って調べ、病気の可能性を判断する。

 近年、この20疾患以外にも、血液検査で早く見つけて治療すれば、発症が防げる疾患が増えている。

図解 新生児マススクリーニング検査(原則20疾患、公費負担)

国はSCIDとSMAの追加を検討中

 「希少疾患の医療と研究を推進する会(クレアリッド)」は、関東や静岡、滋賀など100以上の医療機関と提携し、そうした9疾患の追加検査をしている。2018年に3疾患から開始。代表理事で埼玉医科大特任教授の奥山虎之さん(67)は「症状が出てから対応しては十分な治療効果が得られない疾患ばかり。せっかく乳児期の治療法があるのだから、有料で検査を受けられる機会を提供しようと始めた」と話す。「東海マススクリーニング推進協会」も同様に岐阜県で2021年から追加検査を始め、その後、三重、石川、福井の各県を対象地域に加えた。

 こうした追加検査の対象疾患には、

  • 免疫に異常がある重症複合免疫不全症(SCID)
  • 筋肉が萎縮する脊髄性筋萎縮症(SMA)
  • 特定の酵素の働きが悪く、細胞内に老廃物がたまって全身に影響が及ぶライソゾーム病

-などがある。日本マススクリーニング学会によると、2023年11月で、SCIDを含む原発性免疫不全症候群と、SMAの検査はそれぞれ38の都道府県で実施。国はSCIDとSMAの検査を無償のマススクリーニングに加えることを検討している。

SCIDは感染症が重症化しやすい

 SCIDの検査は、ロタウイルスの生ワクチンが2020年に定期接種化され、生後2カ月からの接種が推奨されていることから、さらに必要性が増している。SCIDでは感染症が重症化しやすく、適切な治療を受けないと、1歳までに亡くなる可能性が高いほか、生ワクチンでも深刻な副反応が起きるからだ。東海マススクリーニング推進協会の下澤伸行理事長は「重い副反応を防ぐためにも、SCIDの検査を受けるのが望ましい」と指摘する。

 SMAは、根本的な原因に働きかける薬が開発され、検査を受けることで発症前にその薬を投与できるようになっている。

 ライソゾーム病は、働かない酵素の種類によって約60の疾患に分かれ、32都道県で検査が行われている。その一つで、脳の発達の遅れを引き起こすことが多いムコ多糖症II型では2021年、脳に効く酵素補充薬が保険適用となり、効果を上げている。開発に携わった奥山さんは「検査は子どもたちの将来を変えうる」として追加検査の意義を訴えた。

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