〈坂本美雨さんの子育て日記〉94 ・今年は盛大にだらだらぼんやりしたい

(2026年1月21日付 東京新聞朝刊)
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だらだらする娘と、親友の青山有紀さん(右)

 坂本美雨さんの子育て日記

観察したことが丸ごと蓄積されている

「あそこの駐車場、100円安くなったね」

 唐突に娘が言った。いつものショッピングモールのはす向かいにある駐車場の大きな看板がこっちを向いている。

 毎日のように前を通るが止めたことはない。「え、そう? 前の値段知らないなあ。そういう細かいこと覚えててすごいよね」と返す。「車乗ってる時、やることないから、周り見てるんだよ。他の車のナンバープレートとか」と、娘。

 そうか、確かに、前を走る車のナンバーが誕生日だったり関係のある数字だったりすると目ざとく報告してくるし、街の変化やちょっとした違和感によく気づいている。観察したことは、まるごと彼女の中に蓄積されているんだな…。

 娘は長距離ドライブの時以外は車では動画を見ないので、音楽を聴いたり、景色を眺めたりしていて、その時間を共有していると自分の小さい頃の感覚を思い出す。なにか考えているようで考えていない、退屈とも違う、空白の時間。信号待ちしている人を見て生活を想像したり、個性的な格好に目が行ったり。今日は雲のスピードが速いな、と気づいたり、運転の荒い車に文句を言ったり(笑)。口に出さずとも同じところを見ているとなんとなくわかって、チラッと目を合わせたり。

 インプットでも学びでもない、なんでもない時間だけど、今の私たちの生活に圧倒的に足りていないことだなと思う。

時間を無駄にしているわけじゃない

 ついついわたしは自分の頭を情報で満たしてしまう。読みたい本、行きたい展示、見たい映画…。仕事も娯楽も境目なくインプットばかりになってしまう。子どもたちも、今はそうなっているのかもしれない。日々の予定は塾や習い事で無駄にする時間すら少ないし、少しの空き時間も動画やSNSで埋めてしまえる。忙しくしていると安心する魔法にかかっている。いや、時間を無駄にしてはいけないという呪いかもしれない。

 そういえば、4年生の学期始めに校長先生がこう宣言してくれていた。「子どもたちには、だらだらする時間が必要です」と。思えば、自分の核となる幸せな記憶の断片は、だらだら&ぼんやりの中にあった気がする。車の窓の外に流れる景色や、宿題をしないで猫と寝っ転がっていたソファの質感。あれは時間を無駄にしているわけじゃなかったんだ。親子ともどもどんどん忙しくなる小学高学年だけれど、今年は意識的に、盛大にだらだらぼんやりしたいと思う。

坂本美雨(さかもと・みう)

 ミュージシャン。2015年生まれの長女を育てる。SNSでも娘との暮らしをつづる。

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