性教育を「必修」にしたフィンランドはどうなった? 日本との大きな差
中絶も性感染症も減少 正しい知識が自分を守る
-フィンランドで行われている性教育は?
「1970年に法律で必修となった。今では性の多様性に加え、シングルマザーや男性同士のカップルといった家族の多様さ、家庭内の男女平等などを、未就学児の段階から学ぶ。生殖のしくみや性交は主に中学校段階で教わるが、中学入学前でも『赤ちゃんはどうやってできるの』と聞かれれば、子どもの年齢に合った表現で教える。性教育で性交を教えることは避けられず、何歳まで教えてはいけないという決まりはない」
-積極的に教えるメリットは何か。
「正しい知識がなければ、子どもたちは性暴力やクラミジアなど性感染症、望まない妊娠などから自分を守れない。データにも表れている。90年代に経費節減のため性教育が選択科目にされ、あまり実施されない時期があった。すると、それまで減少していた10代の人工中絶数が上昇に転じたが、2000年代に再び必修化されると再び減った。性感染症も同じ傾向で、性教育アイキャッチ画像を設定の軽視は子どもたちに良い影響を与えないことが分かる」
日本の学習指導要領は「変えるべきだ」
-日本は学習指導要領で中学校では性交や避妊を教えないと定めており、足立区の授業が問題になった。
「性教育を行うと子どもの性行動が早まると考えているのなら、全く逆だ。子どもは純真無垢(むく)で何も知らない存在ではなく、インターネットや友人からの情報でポルノに触れている。学校で正しく教えなければ、誤った知識で性体験を急いだり、自分やパートナーを傷つけることもある。性行動が盛んになる年齢の前に正しい教育が必要。学習指導要領は変えるべきだ」
-日本では性教育がタブー視される。フィンランドはどう乗り越えたのか。
「国民の約7割がキリスト教徒で、教会は最初、性教育に対警戒していたが今は積極的に教えている。60年代から社会福祉国家としての制度が定着し、民主主義や平等への意識が高まったことが大きい。性教育は男女平等や人権、人の多様性を教えることにつながり、必要だと理解されるようになった。子どもたちは性について知る権利があり、性教育はあらゆる人々の幸せや安全、健康のためになる」
足立区立中学校の性教育授業に対する介入問題
足立区立中が3月に人権教育として行った3年生の性教育の授業について、古賀俊昭都議(自民)は都議会文教委員会で、校名や教員名を挙げた上で「発達段階を無視していて不適切だ」と批判。都教委も学習指導要領にない「性交」や「人工妊娠中絶」という言葉を使ったのは問題という見解を示した。性教育を実践する教職員や大学教授らは「教育への不当介入」だと抗議している。
ユッカ・レヘトネン
1964年生まれ。ヘルシンキ大学の専任講師でジェンダー学の上級研究員。性の平等や多様性を研究テーマとし、教材開発や実態調査を行っている。性的少数者の人権擁護に関する非政府組織(NGO)でも活躍。