中学生と考える、戦争のこと

大村歩 (2018年5月28日付 東京新聞朝刊)
子育て世代がつながる

 ベトナム戦争などの戦場を写してきた報道カメラマン石川文洋さん(80)が、中学生に戦場写真を見せながら語る課外授業の様子をまとめた本「報道カメラマンの課外授業」(童心社)が今春、出版された。目を背けたくなるような凄惨(せいさん)な戦争の写真を通して、生徒たちは何を学んだのか。

 「私も村を攻撃する兵士と一緒にヘリコプターに乗りました。もしヘリコプターの着陸点に解放軍がいると戦闘になります。だから兵士はすぐ銃を撃てるように準備していました。戦場へ向かうときは兵士も私も怖いです」

 石川さんの語りに添えられた写真は1966年、ベトナムで撮影された。ジャングル上空を飛ぶヘリコプターの中で機関銃を構える兵士の横顔の先に、同じように機関銃を突き出したヘリコプターの姿が見える。表情がはっきり分かる人間の顔はないが、異様な緊張感が漂っている。

写真 石川文洋さんの「報道カメラマンの課外授業 いっしょに考えよう、戦争のこと」

石川文洋さんの「報道カメラマンの課外授業 いっしょに考えよう、戦争のこと」

 4巻では、墓標が延々と並ぶ写真が見開きで迫ってくる。旧ユーゴスラビアの紛争で破壊されたボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボだ。84年の冬季五輪で使われたスタジアムは破壊され、その手前にあった広場が広大な墓地となっていた。

 これらの写真は、2010年9月~16年3月まで、長野県茅野市立北部中の生徒計253人を対象に、平和学習として計10回行われた課外授業で使われた。プロジェクター(投影機)で写真を投影し、石川さんが説明をしながら、戦争と平和について語った。今回の本では課外授業を追体験できるように、授業を記録したビデオをもとに、写真と石川さんの語りを紙上再現している。

戦場のありのまま生徒たちに

 同校に勤務していた両角(もろずみ)太教諭(現在は茅野市立永明中に勤務)は「はじめは教員の間でも、悲惨な死体の写真を見せるべきではないという声もあった。しかし、ありのままの戦場の実態を見せなければ子どもたちの心に響かないと思い、どの写真を見せるべきかと石川さんと何度も話し合った」と話す。両角さんは「見たくなければ見なくてもいいよ」と声を掛けたが、意外にも子どもたちは目を背けなかったという。

 当時、授業を受けた県立高三年の関陽香理(ひかり)さん(17)は「最初は見たくないと思ったが、写真を通して戦争の現場の怖さを知り、また優しい人柄が伝わってくる石川さんのお話を聞いて、当たり前にできている私たちの生活が、当たり前ではなくとても幸せなんだと思った」と振り返る。同じく県立高三年の北沢望さん(18)は「同級生で何人か気分が悪くなった人もおり、僕も汗が出てきたが、目はそらさなかった。やっぱり戦争は絶対にやっちゃいけないことなんだと思い、それ以降、世界の紛争により強い関心を持つようになった」と話した。

 課外授業はいまも、両角さんが勤める永明中で続けられている。今春、心臓病の手術を受けたばかりの石川さんだが、「まだまだ体は大丈夫。続けていきたい」と意気込む。

 「確かに悲惨な写真です。でも、私はむしろ子どもたちにこそ、見せるべきだと思っている。戦争を防ぐためには、子どもたちに戦争の実態を見せ、きれいごとでは済まないことを伝えて、戦争反対の思いをもってもらうしかない。今回の本でより多くの人に知ってもらえれば」

 A4判で全4巻。各巻2800円(税抜き)。問い合わせは童心社=電03(5976)4402=へ。

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