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東京医大の一律減点…「女子枠」全国にあるのでは? 医師が学部別に合格率分析

中沢佳子、皆川剛 (2018年8月7日付 東京新聞朝刊)
 女子を入試で減点し、合格者を絞った疑いが持たれている東京医科大の入試事件。こうした「女子枠」を設ける不正は長年、全国の医学部で横行していたのではないかと、富山市の種部(たねべ)恭子医師(53)は指摘する。種部さんが全国医学部の入試合格者の男女比から分析した女子枠とは。それは何のために存在するのか。

種部恭子さん

「女性医師を『増やさない』というガラスの天井」

 「『ガラスの天井』を破らなくてはいけない」

 女性の医師や歯科医師、薬剤師でつくる一般社団法人「日本女性医療者連合」の理事で、「女性クリニックWe!TOYAMA」(富山市)の種部恭子院長はそう訴える。種部さんは昨年、「女性医師を『増やさない』というガラスの天井」という論考を発表した。東京医大に限らず、大学医学部で女子の合格率が偏っているとの分析だ。

 種部さんによると、医師国家試験の合格者に占める女性の割合は2割ほどだったが、1990年代後半に伸び始め、2000年に3割に達した。

 「ところが、その後は30%台前半から動かない。学会幹部や医学部の教授など、意思決定する立場の女性も増えていない。おかしいと思い、国家試験の前段にある大学医学部について調べてみた」と種部さんは振り返る。

不自然…医学部のみ鮮明に「男子が上」

 16年の文部科学省の学校基本調査をもとに、医学部の合格率を男女別に割り出した=グラフ。すると、人文科学や社会科学系で女性の合格率が高いのはもとより、理系でも歯学が男性19.39%、女性22.72%、工学は男性12.27%、女性12.50%など、どの学部も男女ほぼ同じか女性のほうが上回っていたが、医学部だけは違った。

 男性6.85%に対し、女性は5.91%。種部さんは「何の操作もなくこんな結果になるのは、不自然としかいいようがない。入り口でコントロールが働いているのではないか」とみる。

 実際、予備校の関係者にも「医学部志望の女子学生は、偏差値がかなり高い人でも切られている」と聞いたことがあるという。

「若い女性に与える絶望は大きい」

 その中で浮上した、東京医大の得点操作疑惑だ。

 種部さんは「すべての大学の状況を調べる必要性がある。筆記試験の成績だけでなく、面接や小論文といった明確な基準のない評価や試験官の男女比など、見えない部分も含め、確認すべきだ」と指摘する。

 抗議行動を始めた作家の北原みのりさんは「企業の入社試験でも、テストの点数だけでみれば、合格者は女性ばかりになると、昔から言われてきた」として、今回の不正が学問の入り口で起きた構造的な差別であることを問題視する。

 「若い女性に与える絶望は大きい。女性の労力や時間、人生をないがしろにする理屈は、たとえどんなものであっても許されない」と批判する。

M字カーブとは? 大学側が嫌う「研修期間中の離職」

 女性の合格者を意図的に減らすとすればなぜなのか。医師不足の中で離職率が高いとされる女性よりも、男性を確保したいとの思惑があるようだ。

 医療関係者の間で知られる「M字カーブ」がある。

 医学部卒業後に医師となった人は年々医療現場を離れ、男女ともにおおむね35歳で底を打って上昇に転じる。この過程で、男性は90%が職場に残る一方、女性は76%まで減るという統計だ。厚生労働省や内閣府の男女共同参画局が、政策立案に引用している。

 この20代後半から30代前半の下りカーブの時期が、医師生活の始まりとなる研修期間に当たる。「この研修医の時期に辞められることを、大学側は特に嫌う」と、複数の医療関係者は証言する。

 卒業後2年間の臨床研修は、2004年に法律で義務化された。各診療科を回り、基礎を学ぶためだ。

東京医科大前で抗議活動する女性たち=3日夕、東京都新宿区

 だが、研修はそれだけでは終わらず、その後も多くの医師が法律に定めのない「後期研修」に入る。

 血液、呼吸器、放射線など、各科の専門医となるために患者を受け持ちながら学ぶ。各学会に専門医として認定されるためには、数年から7年程度の臨床経験や診療実績が求められる。

「人手不足のつけを研修医が吸収している」

 「駆け出しの医師にとっては経験を積む貴重な機会である一方、大学病院にとっては若手は派遣職員よりも安い給料で使える労働力となる」と指摘するのは医療政策を研究するNPO法人「医療ガバナンス研究所」の上(かみ)昌広理事長だ。

 自身も研修医時代にアルバイトを掛け持ちしたという全国医師連盟代表理事の中島恒夫医師は、「20代後半から30代前半の研修医が数年でも現場を離れると、現場が回らないという実態もある」と話す。

 多くの後期研修医が昼間は研修先で患者を診るかたわら、夜間や週末は別の病院でのアルバイトに充てて生活している。

 勤務医でつくる労働組合「全国医師ユニオン」が昨年実施したアンケートでは、後期研修医の19%が過労死ラインを超える時間外労働をしていた。常勤医の5%や初期研修医の9%に比べて突出していた。「人手不足である現場のつけを研修医が吸収している構図だ」(ユニオンの担当者)

 そして、多くの女性が結婚や出産を経験する時期がこの研修時期と重なる。点数操作をしてでも男子を多く合格させるのは、毎年100人規模で過重労働も厭(いと)わずに働ける人材を確保できるからだ。

「過重労働が当たり前、という常識を変えて」

 だが、前出の種部さんはそもそも、女性の離職の「原因」を出産や子育てだととらえること自体がおかしいと断じる。

 「継続的に働けないのは、長時間労働や滅私奉公を前提にした過重労働が当たり前になっているからです。その悪しき常識こそ変えるべきなんです」

 東京医大の問題をきっかけに、医師の働き方を改める議論は進むのか。

 約1200人の女性医師が加入する日本女医会の前田佳子会長は、女性が離職せずに働ける職場環境の整備を求める声明を発表した。

 「勤務環境の改善もせず、個々の能力を考慮することもなく、受験生が学ぶ機会を奪った。医学界がこういうことをしているのが、残念でならない」と前田さん。時短勤務やシフト制を導入し、「家事や育児は女性が担うもの」という、根強く残る「常識」を変える必要もあると主張する。

 「医師が離職を迫られる事態は女性だけの問題ではない。女性医師が働き続けられる環境とは、男性医師にとっても働きやすい環境にほかならない」と中島さんは訴えている。

デスクメモ

 公開中の米国映画で女子テニスの大物選手が言う。「女が男より上だと言ってない。敬ってほしいだけ」。女だというだけで大会賞金は男子より格安。抗議の「男女対決試合」で勝利した彼女がみた夢は女性差別だけではない、性的少数者もそう。あらゆる人への不合理な排除なき社会だ。(直)

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