〈スポーツ虐待〉陸上強豪校の顧問が私に言い放った忘れられない言葉「おまえが走れないことなんて…」

高橋可鈴 (2020年10月13日付 東京新聞朝刊)
子育て世代がつながる
 スポーツ指導に名を借りた暴力や精神的な抑圧を指す「スポーツ虐待」。その現場になりやすいのが部活動だ。神奈川県の高校の陸上競技部員だった記者(25)も、顧問の叱責(しっせき)を受け、どう受け止めるべきか悩んだ。当時の体験を振り返り、部活における指導者と部員の関係性について考えた。 

叱責2時間 言い返せず体が…

 「おまえが走れないことなんてどうでもいい。他のメンバーを連れ戻すのがおまえの役目だ」。私の目をジッと見つめ、淡々と言い放つ男性顧問の言葉は今も忘れられない。駅伝の神奈川県大会で好成績を収め、目標としていた関東大会に出場した高校2年の秋のことだった。

 個人種目でパッとしなかった私は「駅伝で結果を残したい」と強い思いを口に出し、先頭に立って練習に臨んだ。他の部員も同じ気持ちで関東大会を目指した。ただ距離を積む練習などで追い込み、万全な状態で走れない部員が私を含め続出。重圧から心のバランスを崩して練習できなくなる部員もいた。

 しかし、部員の不調の責任を顧問は私1人に転嫁した。「おまえがあいつらを使い捨てしたんだ」。一対一の叱責は2時間近く続いた。感情を殺すため拳を握り続けたら左半身がけいれんし始めた。顧問に嫌われたら試合に出られないと考えると、言い返せなかった。話しだすと震えるので相談もできず、胸の奥にしまい込んだ。

競技場を見るだけで涙が出て

 その後、顧問への恐怖心は消えず、競技場を見るだけで涙が出て、走れなかった。卒業後は陸上から離れた。同期の部員に「(顧問は)強く言えば頑張ると思っていたみたい」と言われた。奮起するどころか、おびえ、陸上に向き合えなかった。

 私もそうだったが、部員は「試合に出たい」一心で、選手起用の決定権を持つ指導者についていく。指導者は萎縮させ支配するのではなく、指導の意図を分かりやすく説明する努力を怠らないでほしい。そういう指導者にだったら、私も「心の声」をのみ込まず、伝えられたと思う。

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部員と顧問の関係について話す鯉川なつえ教授=東京都文京区で

「考えさせない」主従関係が自由を奪う 順天堂大・鯉川なつえ教授 

 指導者との関係に苦しむ部員をなくすために必要なことは-。スポーツ指導に詳しい順天堂大スポーツ健康科学部の鯉川なつえ教授に聞いた。

指導者のおかげと考える「詐欺師症候群」

 主従関係は、「考えさせない」という形で部員から自由を奪う。指導者は練習時間・量を減らしてでも、部員の考えを聞く時間を取るべきだ。

 主従関係の中で育った指導者は、勉強し直す必要がある。分かるように伝えていないのに、「分からないやつが悪い」と言い放つのは指導ではない。説明がつかない怒りを「反骨心で頑張ってくれると信じていた」と正当化するのもおごりだ。

 自身を過小評価する「詐欺師症候群」がある。好成績を収めても自分の能力や努力の成果として受け入れられず、「指導者のおかげ」と考えてしまう。きちょうめんで神経質な女子に多い。練習や試合の内容について、指導者の評価ではなく、部員自身が振り返って満足度を決めて口にする。この積み重ねが自信につながる。

 高圧的な指導者に自分の意見を伝えるのはとても難しい。中・高生ならなおさらだ。それでもよく考えて「こうしたい」と伝えてほしい。指導者も意見を文句ととらずに耳を傾けて。部活動レベルでも学校ごとに相談窓口を設けるべきだ。

鯉川(こいかわ)なつえ

 福岡県出身。順天堂大陸上競技部女子監督、女性スポーツ研究センター副センター長。専門は女性アスリートのコンディショニング&コーチング。

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コメント

  • 匿名 より:

    その通りです。中学、高校の時、素晴らしい記録をだしても、その後全く伸びない人が多すぎます。将来を見据えた科学的根拠に基づいた指導法を望みます。何よりも、怪我や故障をさせない指導法を望みます。

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