ナチス人体実験の末に殺された20人の子ども 映画「北のともしび」 ユダヤ人迫害の史実をつなぐ

(2022年7月27日付 東京新聞夕刊)
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人体実験の末に殺された子どもたちの写真=映画の一場面から、S.Aプロダクション提供

 第二次世界大戦末期、ドイツ第二の都市ハンブルク郊外の強制収容所で、人体実験の末に殺された20人のユダヤ人の子どもたちがいた―。この史実と向き合い続ける人たちを描いたドキュメンタリー映画「北のともしび」が30日、都内で公開される。監督の東志津さん(47)=東京都台東区=は「これからを生きる子どもや若者たちに見てもらいたい」と願う。

70年代末まで知られていなかった

 ノイエンガンメ強制収容所は1938年、ナチス・ドイツに設置された。ここに1944年11月、アウシュビッツ収容所からユダヤ人の子ども20人が移送された。結核菌の人体実験に集められた5~12歳の男の子10人と女の子10人。衰弱した子どもたちは、ドイツ敗戦が迫る1945年4月、証拠隠滅のために殺された。

 人知れず命を奪われた彼らの存在は1970年代末ごろまで広く知られることはなかった。東さんがこの史実を知ったのは2010年、在外研修員としてパリに滞在していた時。「本で読み、いてもたってもいられなくなって」ハンブルクへ。

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「考え続けることの大切さを伝えたい」と話す東志津さん

 「パリでは人種や文化、宗教などの違いによる不平等を目の当たりにし、私自身もアジア人として身の置き所のないような感覚だった。迫害されたユダヤ人の子どもと自分は一緒かもしれないと、その命の顛末(てんまつ)を放っておけないと思った」

悲劇から希望を見いだす映画を

 ノイエンガンメ収容所は現在、記念館として追悼と学びの場に変わった。東さんは「悲劇は本当だった」とショックを受ける一方、不思議な感覚を持った。

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ノイエンガンメ収容所にある倒れゆく人の像=映画の一場面から、S.Aプロダクション提供

 熱心に展示を見学する来館者、丁寧に維持され追悼の意が感じられる施設、美しい自然に囲まれた穏やかな気配。「70年以上前に死んでいった子どもたちが大切にされ、今を生きる人たちと出会う奇跡のような場だと感じた」。悲劇的な史実から希望を見いだす映画が作れるのではないか。そう考え、2014年から2019年までの間、数回にわたり現地取材と撮影を重ねた。

異質なものへの恐れやあざけり

 映画では、命日である4月20日に、地域の若者が犠牲者一人一人の名前を読み上げる追悼式や、欧州各国の若者が議論し考えるプログラムなど、今を生きる若者がこの史実と真摯(しんし)に向き合う様子が描き出される。「子どもたちの死が、記念館に集う人たちにさまざまなことを考えさせることに、希望を感じられた」

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映画では若者たちが過去の出来事を知ろうとインタビューする取り組みなども紹介される=S.Aプロダクション提供

 東さんは、中国残留婦人を描いた「花の夢」(2007年)、日本だけでなく朝鮮半島やオランダの被爆者たちの晩年を描き出した「美しいひと」(2014年)と、前2作でも自らカメラを回し、歴史に埋もれた個人の戦争の記憶を伝えてきた。「異質なものへの恐れやあざけりといった気持ちが戦争を引き起こす。違いをどう乗り越えていくかがますます大切になる。自分の中の『人間性』を手放さずにいたい、という思いが伝われば」

 映画は「新宿K’s cinema(ケイズシネマ)」で上映。東さんの前2作の上映日もある。自主上映も募っている。問い合わせはS.Aプロダクション=電話070(8373)7456=で受け付けている。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年7月27日

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