高校の新必修科目「公共」とは? 社会保障の持続は君たち次第 広がる不信に国が危機感

五十住和樹 (2023年2月15日付 東京新聞朝刊)
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社会保障費が国の歳出全体の約3分の1を占める一般会計のグラフを示す杉浦光紀教諭=東京都立井草高校で

 高校で2022年度から公民科の新たな必修科目「公共」が導入され、「少子高齢社会での社会保障の充実・安定化」について考える授業が始まった。年金などの制度の持続は、未来の大人たちにかかっているとして、厚生労働省は教材やモデル授業の指導案まで作る熱の入れようだ。若者の関心が薄いとされる社会保障だが、主権者として多くの課題にどう向き合えばいいのか。教室を訪ねた。 

災害、病気…人生で起こる困難とは

 「社会保障とは何だろう」。1月下旬、東京都立井草高校(練馬区)の2年生の教室で主任教諭の杉浦光紀(こうき)さん(33)が問いかけると、「災害」「病気の時に使う」などと声が上がった。

 約40人の生徒を前に、杉浦さんは「人生で起こりうる困難」と黒板に書き、年金は高齢者だけでなく障害を負った時、家計を支える家族が亡くなった時も支給されると説明。失業した時の雇用保険や医療、労災、介護保険も例に挙げた。

 クイズを交えて授業は進む。年齢構成を示す人口ピラミッドの図を見て少子高齢化が年金制度に与える影響などを、席の隣同士で意見交換。最後は各国の社会保障制度の違いを示し、その評価や日本の課題などを考える宿題を出した。

 授業後、外山翔一朗さん(17)は「大人になる前に社会保障を知っておくのはいい」と話した。「保険料を払っても将来、年金をもらえないかも」と不安をのぞかせる生徒もいた。

「社会で課題を解決する力」を養う

 2022年度の1年生から順に始まった新科目「公共」。1年か2年での2単位を必修とする。成人年齢が18歳に引き下げられたのを受け、社会に参画してさまざまな課題と向き合って解決する力を養うのが狙いだ。杉浦さんは今回、2023年度の公共の授業に備え、現2年生の倫理の授業の中で、試行する形で社会保障を取り上げた。

グラフ 社会保障給付の推移

 「まず自分自身の問題として認識してほしい」と杉浦さん。社会保障給付費は高齢化に伴い右肩上がり。財政の図表などを示し、データを読み解く力の重要性も指摘する。「主権者として社会の課題に向き合うには、批判的な視点も含め自分の考え方を形成する必要がある」と話す。

熱を入れる厚労省 指導案や副教材も

 社会保障教育は、昨年末の全世代型社会保障構築会議の報告書で推進すると明記。厚労省は新科目導入で、年金と医療保険分野の各2コマ分のモデル授業に対応する指導者用マニュアルを作った。「50分授業でそのまま使える」指導案や副教材、ワークシートも用意。「どうせ年金は破綻する」「自分で備えた方がまし」といった制度への不安・不信が、大人を通して子どもに広がる状況に危機感を持ったからだ。

 2021年度の国民年金の納付率は78%。担当者は「制度への無関心や保険料を支払わないことで、いざというときに制度を使えない恐れがある」と教育の意義を語る。

 日本の年金は、現役世代が納めた保険料をその時の高齢者の給付に充てる賦課方式。少子高齢化で支える現役世代の負担は増す一方で、社会保障費用が高齢者に手厚く、子ども・家庭に少ない点も課題とされる。

 東洋大の栗原久教授(63)=社会科教育学=は「高齢者に偏っているのは若者が投票に行かないのも一因と気付くことにつながる」と主権者教育の観点から指摘。「高福祉・高負担か、低福祉・低負担か。有権者がどんな国家を選ぶのかを考えるには、社会保障は分かりやすいテーマ。コスト面などの問題点もきちんと教えてほしい」と話す。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年2月15日

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  • 教師のバント says:

    仮に私が担当になったら、低投票率が続く国内選挙の改善策を生徒に討論させる。
    私自身も一つアイデアがある。「この人は絶対当選させたくない」人に反対票を投じられるような投票システムに改めるのである。当選者は賛成(?)票から反対票を引いた数の多い人からとする。縁故候補や後ろ暗いことをしている候補は首筋が寒くなることだろう。もう一つ、現実的な方法として、ネット投票システムをの推進である。私のようなアナログオヤジは手遅れだが、これからは情報ネイティヴが活躍する時代、国や地方自治体は是非実現して欲しい。

    教師のバント 男性 50代
  • 教師のバント says:

    「公共」担当は家庭科教員でも可能かもしれない。いずれにしても「公民」の専門家が力を入れて教科指導願いたい科目である。特にこれまでの国家の無策ぶりを強調した内容が望まれる。皆、選挙に行くようになるだろう。おっ、穿った見方ではあるが、実は「公共」は政府にとって「諸刃の剣」なのでは?

    教師のバント 男性 50代

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