学校に行けない子に必要なのは、いろんな人生をイメージできる居場所 大人も集う荒川区の「ユニバーサルステーション」

(2023年4月20日付 東京新聞朝刊)
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勉強したり、ゲームをしたりして過ごす子どもたち=東京都荒川区で

 誰もが気軽に立ち寄れて、安心して過ごせる-。東京都荒川区にあるマンションの一室は、週3回そんな場所になる。学校に行けない小学生、囲碁仲間を探すお年寄り。世代も抱える問題もさまざまな人が集う「居場所」への公的支援は、実は手薄だ。運営する一般社団法人「子ども村ホッとステーション」の大村みさ子さん(68)は「基礎自治体が制度として整えてほしい」と望む。

マンションの一室 勉強したり遊んだり

 都電荒川線の町屋2丁目駅近く、マンション2階に「ユニバーサルステーション」がある。以前は高齢者向けのデイサービス施設で中は136平方メートルと広く、間仕切りや段差がない。

 3月下旬の平日昼、大学生から勉強を教わる中高校生のそばに、携帯ゲームで遊ぶ小中学生と囲碁に興じるお年寄りがいた。別のテーブルには、花や葉を乾燥させたポプリの袋詰めをする人たち。台所からは昼食のみそ汁のにおいがした。

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奥のキッチンで作った食事は大人200円、子ども100円で提供される

 「あの子たちは学校がある日も朝から来ます」。大村さんは小学生2人に目をやる。「あの男性は囲碁仲間がいない日は他の作業をしています」。この日の参加者はスタッフ5人を含めて40人。「春休みの午前中は勉強の時間なんですけどね」。遊ぶ子たちをやんわりたしなめ、苦笑する。

 元々、中高生の居場所づくりに力を注いできた。2014年に区内の一軒家を借り、家庭や学校に居場所がない子、勉強だけではなく食事の支援も必要な子どもが集えるようにした。

高齢者もひきこもりだった人も、幅広く

 子どもたちにはどこか共通する部分がある。仕事で忙しい親と接する時間が少なく、孤独感を深め、ありのままの自分を肯定する感覚に欠けていた。だが、大人たちと接していくうちに変わっていった。自ら進学を決めたり、音楽好きのスタッフから教わった楽器の演奏に夢中になったり。

 「子どもには人生をイメージできるロールモデルとなる大人が必要なんだ」

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利用者と支援者が一緒にポプリ袋を作ったり、囲碁をして過ごす

 新型コロナ禍の20年春、手狭となった一軒家から移転し、幅広い世代が共に集える試みを始めた。団体理事で社会福祉協議会の職員だった鈴木訪子(ことこ)さん(71)のつてや口コミで、高齢者やひきこもりを脱した人も足を運ぶようになった。

 進路に迷っていた若いスタッフに思わぬ影響も与えた。講談師やボクサーになった人もいるという。大村さんは「交流を通じて自分の原点に返り、生き方を見直したのでは」とみる。

手薄な公的支援「行政の制度が不可欠」

 「子どもは優等生に引かれるわけではない。いろんな生き方があると示せている」と手応えを感じつつも、運営費の負担は重い。物価高騰の中、子ども100円、大人200円の格安で食事の提供を続ける。民間団体の助成や寄付が頼りの綱だ。

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カウンターには近所のパン店から寄付されたパンも並ぶ

 さまざまな人が集う居場所づくりへの公的支援に、国の重層的支援体制整備事業があるが、荒川区福祉推進課の担当者は「利用するかも含めて検討中」。利用を決めても、現場に補助金が届くまで1年はかかる。

 既に事業を利用する八王子市福祉政策課の担当者は「地域で既に行われている事業を集約し、国の仕組みに当てはめるための庁内調整に年単位の時間がかかる自治体もある」と明かす。

 血縁ではなく、緩やかなつながりの力を信じて活動する大村さんと鈴木さんたち。「次世代に運営を引き継ぐには、行政の制度や支援の枠組みが不可欠だ」と訴える。

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「子どもたちをずっと見守れるのが地域の良さ」と話す大村みさ子さん(左)と鈴木訪子さん

重層的支援体制整備事業とは

 子ども・障害者・高齢者・生活困窮者など対象者ごとの支援体制だけでは、多様なニーズに対応できなくなり、2021年4月施行の改正社会福祉法で創設。社会とのつながりづくりを支援する「参加支援事業」、世代や属性を超えて交流できる場を整備する「地域づくり事業」などを区市町村が任意で行う。計画をつくった上で申請し、厚生労働省や都道府県の交付金を受ける。東京都では世田谷区や墨田区、八王子市、立川市などで実施。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年4月20日

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