子どもを大事にしすぎて、自立を阻んでいませんか 育児雑誌編集長・岡崎勝さんインタビュー この10年の子育ての変化とは

海老名徳馬 (2023年5月10日付 東京新聞朝刊)
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子どもの教育環境について話す育児雑誌編集者の岡崎勝さん(中村千春撮影)

 小学校の教員を長く務め、学校でのさまざまな出来事や思いを新聞コラムなどにも長年つづってきた育児雑誌編集長の岡崎勝さん(70)。この間、子どもたちや彼らを取り巻く環境はどう変わってきたのか。現場から見続けてきた実感を聞いた。

先取りして過干渉 子どもは指示待ちに

-東京新聞・中日新聞での連載が10年を迎えました。

 現場で感じる本音をできるだけ伝えたいと思って書いてきました。面白かったとか反響があるとうれしいです。ときに批判の声や手紙をいただくこともあり、しっかり読んでくださっている実感もあります。

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連載10年を迎えた岡崎さんのコラム「子どもってワケわからん!」

-この間子どもたちはどのように変わりましたか。

 大ざっぱに言うと子ども時代が長くなったような気がします。大人になりたくないと思っている子も少なくありません。自分のことは自分でやろうと言われても「ママにやってもらうからいいもん」と。高学年でも授業参観で親に手を振ったり、途中で親がいなくなると心細そうにする子も。以前なら幼さを周りからやゆされて恥ずかしいという意識があったのですが。

-なぜでしょうか。

 難しいですが、一つは親との関係の変化です。少子化で子どもを大事にする意識が強まり、しっかりケアしないとうまく育たないのではという親の不安も大きい。気になるのは「子に嫌われたくない」と親が言うこと。子と根気よくせめぎ合ってしつけることを避け、子どもが困っていると代わりにやってしまう。さらに先取りして世話をするので、過干渉になりやすい。

 戦後の昭和から平成に入る頃までは、親はそれぞれが忙しくして、子どもは地域で放っておかれていた。今は子どもを自由に遊ばせることが危険視され、子育てにお金とエネルギーを投下しないといい子が育たないという考えが主流です。これには歯止めが利かないのでエスカレートし、塾に行かせ、習い事をさせる。きめ細かい教育サービスを受けるほど、子どもは忙しく、指示待ちの姿勢になり、自立が遅れて本来の生きる力が低下していくように思います。

「安全」に偏る育児 失敗や痛みが大事

-新型コロナウイルス禍が子どもに与えた影響も大きそうです。

 思ったよりも深刻に受け止めています。子どもの3年間はとても大きい。5月を過ぎても、子どもたちの多くはマスクが取れません。中学年以上は安心安全のためというより同調圧力で着けているように思います。また、コロナ禍でいろんな課題や問題が提起されました。

イラスト コロナ禍の学校

-どういうことですか。

 マスクをして三密を避ける中で、コミュニケーションを取るといった社会性の育成が難しくなったと言えます。

 近頃の子育てのキーワードは、「安全」「安心」「簡単」「便利」「快適」。地域での遊びや運動が、塾や習い事など至れり尽くせりのサービスに変わっています。例えば子どもたちの野球。以前は集まって道具を調達して、場所と時間を決めてみんなに連絡し、終わった後は、また明日やろうか、おなかすいたからどっかで何か食べよう、と言いながら帰る。これが子どもの遊びですよね。今の子たちは野球をするだけで、送り迎えや準備は親。草野球型から、リトルリーグ型になっている。以前は野球をする前と後のところで子ども同士の関係がありました。けんかもあったし、失敗や痛みから学んで社会性が育まれた。子どもが育つのはここだと思うんです。

 勉強でもタブレットは効率よく学べるが、決められたプログラム以外は排除される。消しゴムで消す時間はいらないし、失敗の足跡も残らない。効率や費用対効果ばかりを求められ、子どもたちが好奇心で動いたり、チャレンジしたり、試行錯誤を経験する場はそこにない。一見無駄や面倒なことの中に、成長に大事なものがあるはずです。

客観的になれない親 相談できずに孤立

-親側の変化はいかがですか。

 昭和までは家族の中で「親の役割」が固定的に考えられ、子どもは元気が一番と、子育ては良くも悪くもシンプルでした。今はいろいろな家族の形がありますし、親と子どもの境界線が薄いです。

 親も子もお互いの距離がうまくつかめず、親子のトラブルが友だちのけんかのようになっています。いじめやけんかの訴えがあれば、親としては子どもに寄り添いながら話を聞きます。一方でそれを大人として客観的に見てほしいのですが、子どもが「しんどい」と言ったら相手を責めないと気が済まない親や、過剰に感情移入して「うちの子は悪くない、相手に謝らせろ」と決めつけの激しい親もいます。

写真 岡崎勝さん

-何が原因でしょうか。

 子育ての悩みを話せる友だちがいない。「うちの子、忘れ物多いんだけど、お宅どうしてる」みたいな話ができません。自分の都合のいいネットの情報だけを受け入れていることもあります。

 子どももよその家庭と日常的に行き来することがない。いろいろな家族を実際に見ることで、自分の家族にもいいところも嫌なところもあり、親たちも頑張っていることがわかる。

-子育てに難しさを感じる人も多いです。

 「寄り添うとか見守るってどういうことですか」とよく聞かれます。今の親たちは、木登りするくらいの元気な子がいいけど、実際に木に登るのは危ないので厳禁だという。

 でも、自由には必ず危険が、チャレンジにはリスクが伴う。危険やリスクをゼロにすると、大人は安心でも子どもの経験値が下がり、どんどん他律的になり、チャレンジそのものを避けるか、あるいは逆に周りが見えず好き勝手になる。親は孤立すると「子育ては難しい」と感じやすくなります。余裕がなく、不安な親が多いです。

過剰な成果主義 自己肯定感は下がる

-親へのアドバイスを。

 子どもが小さい頃はできるだけ、出来栄えよりも頑張ったことを褒めるべきです。例えば九九を覚えるのがみんなより遅くても、頑張っている努力をきちんと褒める。できるようになったことだけを褒めるより「毎日頑張っているね」とか「チャレンジすることが大事だよね」と。小さな進歩を見逃さずに伝えられるかどうかが大事です。

-分かりやすい成果を追い求める風潮があります。

 子どもがよくつらそうに言います。テストで前回が80点、今回は85点。お母さんに「90点はとれないの」と言われると。あまりにも今は成果主義。いつも足らない部分だけを指摘されると、自己肯定感は下がり、逆に承認欲求は強くなります。これは大人側の問題です。子どもが元気になるには、精神的にも肉体的にも、家族や学校に余裕が必要。今は「じっくり、ゆっくり、のんびり」な部分がどんどんなくなっています。

写真 岡崎勝さん

-具体的には、どうすればいいでしょうか。

 大人自身がまず充実した毎日を送ることです。まず大人が元気に生き生きしないと、子どもはついてきません。

 学校でも先生が面白がって授業をすれば、絶対に子どもも乗ってきます。私自身、先日は話題になった黄砂について勉強して、子どもにわかるように話しました。日常の不思議なことやリアルタイムの話題に子どもを巻き込めばいい。子どもと向き合うというより、並んで一緒に動くという感覚です。

 家庭でもそう。例えば「お父さんと一緒に難しい料理をつくってみよう」。子どもはたいてい喜びます。誰かの役に立つことや、喜んでもらえることをやろう、でもいい。大人も子どもも、楽しい、面白い、ドキドキワクワクすることを積み重ねて、家庭でも学校でも楽しく笑い合える時間をつくってほしい。余裕は持つものではなく、つくり出すものです。

岡崎勝(おかざき・まさる)

 1952年、名古屋市港区生まれ。76年から同市立小学校の教員を務め、定年後は非常勤講師、現在も勤務。育児雑誌「おそい・はやい・ひくい・たかい」編集長。フリースクールを運営する一般社団法人「アーレの樹」理事。

※岡崎勝さんが新聞で連載したコラム「子どもってワケわからん!」の中から、厳選した10本を中日新聞Webで読むことができます。6月末までの公開です。

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