夏休みのとっておきの図書9冊、作家・小島敬太さんが紹介 大人も楽しめる「紫禁城の秘密のともだち」「目をさませトラゴロウ」…

出田阿生 (2023年7月23日付 東京新聞朝刊)
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「大人が読んでも心にしみます」と児童書を紹介する小島敬太さん=さいたま市浦和区で

 子どものころに読んだ本は、その後の人生に大きく影響する。夏休みの焼けつく暑さも忘れるような、とっておきの1冊を見つけるには-。翻訳した児童書が、埼玉県学校図書館協議会が推薦する「埼玉・夏休みすいせん図書」に選ばれた作家小島敬太さん(42)に、おすすめを紹介してもらった。いずれも、大人も楽しめるという。

少女と神獣の冒険 今を生きるヒント

 小島さんは中国で1000万部を超える「紫禁城の秘密のともだち」(常怡著、全3巻・偕成社)シリーズを翻訳。1巻の「神獣たちのふしぎな力」が今回、小学3~4年生向けの推薦図書に選ばれた。

写真「紫禁城の秘密のともだち」

 主人公はお母さんが紫禁城で働く小学4年生の女の子。ある日、猫と会話できるようになり、竜や鳳凰などの神獣たちと冒険に繰り出す…。小島さんは物語の魅力を「主人公は未知の神獣を受け入れる。神獣も女の子を対等に扱い、一緒に問題解決する。ワクワク楽しいだけでなく、未知の存在を排除しないという現代を生きるヒントがあります」と語る。

政治は弱者のため ”ズッコケ”異色作

 そんな小島さんが薦めるのは「花のズッコケ児童会長」(ポプラ社文庫)。

写真「花のズッコケ児童会長」

 人気シリーズ「ズッコケ三人組」の1冊だが、「著者の那須正幹さんが戦後民主主義への思いを込めた作品で異色。児童会長選挙のドタバタを面白おかしく描きながら、政治は弱者のためにあると教えてくれる」と話す。

見えない存在 本当の幸せとは何か?

 続いて「父と暮せば」(新潮文庫)。井上ひさしさんによる広島の原爆をテーマにした戯曲だ。

写真「父と暮せば」(井上ひさし)

 「子ども向けに書かれたものではないけれど、どの年代にも読みやすい。原爆で亡くなった父と、生き残った罪悪感を抱える娘。本当の幸せは何かと考えさせられる」。

 この戯曲の亡霊の父と同じように「見えない存在」に光を当てるのが聞こえないはずの「もの」の声が聞こえる泥棒の話、「どろぼうのどろぼん」(斉藤倫著、福音館書店)。見えないといえば妖怪。その大家による「のんのんばあとオレ」(水木しげる著、ちくま文庫)。

写真「どろぼうのどろぼん」

写真「のんのんばあとオレ」

子どもよ怒れ、言いなりになるな!

 「PTAが嫌がる本」というのが「目をさませトラゴロウ」(小沢正著、フォア文庫)。「主人公の虎は、だまし討ちしてくる人間を次々に食べてしまう。一見暴力的だが、大人から自立するためには子どもよ怒れ、権力の言いなりになるな、というメッセージが込められている」。

写真「目をさませトラゴロウ」

 同じく「ムーミン谷の仲間たち」(トーベ・ヤンソン著、講談社文庫)も「正当な怒り」の大切さを味わえる。「母親に虐待され透明人間になってしまった女の子が、他人を助けようと怒ることで自分の姿を取り戻す一編が出色です」

映画化されなかった後半にこそ注目

 そして「はてしない物語」(ミヒャエル・エンデ著、岩波少年文庫)。かつて映画化もされたベストセラーだが、映画になったのは前半部分だけだ。

写真「はてしない物語」

 後半は主人公の少年が独裁者のようになる。「自分の弱さを主人公が反省する後半こそが読みどころ。誰もが加害性を持ち、人生はまっすぐな道のりではないとしみじみ感動する」という。

 音楽家として宮沢賢治の朗読劇の開催にも携わる小島さん。最後に「単行本ではないがイチオシ」というのが、賢治の童話「なめとこ山の熊」。「命を奪い、奪われる『お互いさま』の関係が描かれる。人間中心に偏りがちな現代に、大事なことを教えてくれます」

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年7月23日

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  • 教師のバント says:

    本は私も好きだが、くれぐれも「課題図書」にしないことを、教育委員会や学校にはお願いしたい。

    教師のバント 男性 50代

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