こども大綱に込める思い 大人を信じられなかった私だから、子どもの本当の声を拾いたい 児童養護施設出身の田中れいかさん
「現場の声が届かない」若手のためにも
―そもそも、こども大綱とは何でしょうか。
子どもたちのための約束ですかね。日本というこの国で、何か不安なことがあっても支援を受けられるよっていう約束が書かれているものです。
―こども家庭庁の基本政策部会の委員として、これまで9回の会議で、子ども・若者の立場で発言されてきました。
私がここにいていいのかなっていう不安は毎回ありました。小心者なので、最先端の知識をお持ちになる他の委員の先生方の中で、分からないことを分からないと言えない自分がいて。帰り道に泣く日もありました。
部会のために、児童養護施設3年目の職員さんに話を聞いた時、「現場レベルでは国に言いたいことはたくさんある。でも自分の声は届かない」と言われ、私は国に意見を言える立場にあるのに、びびってしまう自分が悔しかったです。
こども家庭庁の各部会では、若者や当事者の委員を参画させています。基本政策部会では22人中5人が20代の若者でした。 20代後半の私でも意見を述べるのに一歩引いてしまうので、今後、若い委員を増やすとなったら、意見表明を支えるファシリテーターのような存在があるといいですね。大人に意見を言える人だけの声しか通らなくなってしまうので、そうじゃない人の声も拾ってもらえる仕組みがあってほしいです。
公聴会は「おしゃべりしよう」の感覚で
―子ども・若者へのオンライン公聴会が予定されていますが、国に意見を求められるのは初めてのことです。
緊張すると思いますが、日ごろみんなが思っていることを聞かせてもらいたいです。「公園で遊べないのがいやだ」とか「お母さんが仕事でいなくて寂しい」とか。こんな小さいことって思うかもしれないけれど、委員や国にとっては大きな声です。直接意見を伝えるってこわいですよね、おしゃべりしようって感覚でいいと思います。
ー「どうせこども大綱をつくっても、国は変わらない」と諦めている人もいるかもしれません。
(児童養護施設出身者の)私が委員でいる限りは信じてほしいと思います。何かを変えられる立場にあるわけではないですが、公聴会で出会った子たちの声を大切にし、どう反映されたかを大人側が示す方法を考えています。今、国がつくっている子ども・若者の意見を聞く仕組みを、地方自治体が取り入れる可能性があるので、一緒により良くしていきたいです。
「政策」は遠い世界だと思っていたけど
―田中さんも「どうせ…」と思う時期はありましたか。
政策は遠い世界の人が決めてやっていくものだと思っていたので、そもそも期待していなかったです。児童養護施設で暮らすころから、親を信じられないので、大人という存在自体が信じられなかったです。考えが変わったのは、20歳ころですかね。施設を出て短大で留年が決まっていたころ。世田谷区で社会的養護出身者の支援として住宅補助が受けられることになって、初めて役所の人と話しました。
それまで役所の人って、むちゃくちゃ賢くて、堅くて、話が通じないんじゃないかと思っていたけど、いざ目の前にしてみると全然普通のおじちゃん、おばちゃんじゃんって価値観の転換がありました。地域とか行政とかが自分の中で近づいてきました。直接話すって大切ですね。
―こども大綱は年末にかけて策定されます。
中間整理案は出されましたが、まだこれからよくなる余地はあります。子どもの貧困はテーマとして柱立ててありますが、子どもの貧困対策に比べて、若者の貧困への支援については、表現がやや弱いように思います。家があっても家という機能がない子もいるので、そういう子どもや若者の支援も盛り込まれてほしい。ここに書いてあることが一気によーいスタートではなくて、5年間で何を優先的に取り組んでいくか、「こどもまんなか実行計画(仮)」に書かれることが重要なので、注視したいと思います。
田中れいか
親の離婚をきっかけに7~18歳まで世田谷区の児童養護施設で暮らす。社会的養護専門情報サイト「たすけあい」を創設。社会的養護から進学する子どもの受験費用をサポートする一般社団法ゆめさぽ代表理事。著書に「児童養護施設という私のおうち」(旬報社)。
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