AIは切れ味のいい包丁 子どもの利用は社会的なモラルを身につけてから 栗原聡・慶応大教授に聞く「人間とAIの共生」

滝沢学

 対話型の生成人工知能(AI)「chatGPT」の登場から1年あまり経ちました。質問を入力すれば、まるで人間のように瞬時に答を返す当意即妙ぶりから、業務の効率化やアイデア出しなどに採用する企業、自治体が増えています。

 では、子どもたちの利用はどう考えるべきでしょうか。日本におけるAI研究の第一人者で、「人と共生できる次世代AI」の研究を進める慶応大学理工学部の栗原聡教授は、初等教育段階の子どもたちについては「まずはモラル教育や社会性を身につけることが大切」と指摘しています。

 chatGPTの登場は、技術的な知識がない人でもAI技術を簡単に使えるようになったという点で「AIの民主化」を加速させた、と栗原教授は言います。一方、世界的に懸念されているのは、便利な道具の悪用です。欧米では利用の一方で、規制論議も盛んになっています。

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人と次世代AIとの共生、子どもの利用のあり方について話す慶応大の栗原聡教授=横浜市の慶応大日吉キャンパスにある生成AIラボで(市川和宏撮影)

人より賢いAIがあと数年で登場?

 AI研究は1960年代、80年代の2回のブームを経て、現在は画像や音声の認識精度を飛躍的に高めた「第3世代AI」に進化している。人の脳の神経細胞を模したニューラルネットワークを使い、コンピューターに大量のデータを学習させる革新的技術、ディープラーニング(深層学習)が2010年代から成果を上げた。chatGPTも深層学習を応用して開発された。

 「第4世代(次世代型)AI」は、高い自律性と汎用性を持ち人間と意思疎通できるレベルが目標。米企業家のイーロン・マスク氏は4月、人より賢いAIが2年以内に登場するとの予測を述べた。

誰でも使えるので、規制が必要に

―なぜ今、リスク管理がこれほど注目されるのでしょうか。

 例えば、包丁は料理をするための道具で、人を刺すためのものではない。生成AIという切れ味のいい「包丁」が出てきて、誰でも使えるようになったことで、(悪用されないよう)規制の必要性も高まったと言えます。

―小学校など初等教育の段階で、AIの活用は必要でしょうか。

 まずは社会的なモラルをちゃんと守れる人にならないと。つまり社会性や人間同士の関係を身につけるために小学校や中学校でAIが必要かと言われれば、必要はありません。使う技術だけなら、子どもたちは言われなくても学びます。社会性とか、もっと五感=視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚=を培う教育をしていく必要があると思います。

小中学生のスマホは弊害が大きい

―内閣府などの調査では小学生の6割超、中高生の9割超がスマートフォンを持っています。早期にスマホを持つことはどうでしょうか。

 連絡手段としては意味があっても、それ以外では使う必要がない年齢だと思います。特に小中学生は弊害のほうが大きいのではないでしょうか。高校生ぐらいになれば、自ら学ぶための道具として使う意味は出てくるかもしれませんが。

 ただ、使わないほうがいい、というのは、今の「道具としてのAI」のレベルなら、ということです。今後開発を目指す、ドラえもんのような(自ら考えて動く)次世代AIが登場すれば話は別。現状の「道具としてのAI」は、使い方が分からないといけないので、使う側の責任が大きいです。

 栗原教授は、教育現場で現状レベルのAIを活用する場合、指導する教師の責任も大きい、との見方を示す一方、将来は状況が変わってくる可能性があると言います。子どもたちにモラル面のアドバイスができるほどAIが進化する場合は、利用の仕方も変わってくるだろうと予測しています。

写真 栗原聡教授

栗原聡(くりはら・さとし) 

 1965年、神奈川県生まれ。NTT基礎研究所、大阪大、電気通信大などを経て慶応大理工学部教授、慶応大共生知能創発社会研究センター・センター長。「人と共生できる次世代AI」の研究を進める。漫画家、故・手塚治虫さんの代表作の一つ「ブラック・ジャック」の新作を、生成AIとのやりとりで制作するプロジェクト「TEZUKA2023」の総合プロデューサーを務めた。人工知能学会の副会長・倫理委員会委員長。著書に「AI兵器と未来社会 キラーロボットの正体」(朝日新書)など。

栗原聡教授のインタビューをさらに読みたい人はこちらから。

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