「通信制高校のサポート校は通学定期の対象外に」 JR東の決定は配慮不足では? 撤回求める声を受け、一転延期

宮畑譲 (2025年3月31日付 東京新聞朝刊に一部加筆)
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娘が今春入学する通信制高校で必要なパソコンや教科書を購入した女性=神奈川県内で

 「サポート校」などと呼ばれる通信制高校の連携施設に通う生徒への通学定期券について、JR東日本は4月1日から発行停止すると各校に伝えていた。これに対し、複数の保護者から撤回を求める訴えが本紙に寄せられた。だが、取材を進めていると、3月26日に一転して停止延期の検討を始めたとJR東から連絡が。同社は「さまざまなご意見を踏まえた」というが、学びを続けたいという通信制高校生への配慮が、足りなかったのではないか。

【4月1日、編集チーム追記】JRは「2026年3月までは、引き続き通学定期券の対象にする」と方針を変更しました。

4月8日、生徒らの声を受けてJR東日本の社長が会見で謝罪し、今後について言及しました。【記事はこちら】通信制サポート校生の通学定期「廃止」問題 「生徒への配慮に欠けていた」JR東社長が謝罪、来春以降も継続を国と協議へ

母親「鉄道会社の対応には、傷つく」

 4月から首都圏の通信制高校に長女(15)を通わせる神奈川県内の母親(43)が、通学定期が使えないと分かったのは3月に入ってから。高校を通じ、JR東の方針が伝えられた。私鉄約30社もならうと示されていた。「通信制とは言うが、通学は勉強を続ける励みになる。こうした鉄道会社の対応には、傷つく」と母親は話した。

 長女は病気で入院した期間も長く、小学5年~中学2年までほとんど学校に通えなかった。芸能コースがある通信制なら、卒業資格を得るまで頑張れるだろうと、進学先を選んだ。

 高校指定の施設へ週3日は通う予定だが、通常定期だと通学定期より1カ月で1万円多くかかる。授業料など約90万円を振り込み、パソコンや教科書も購入した後に分かったため、追加出費のやりくりに気をもんだという。

周知なく、入学者には「寝耳に水」

 JR東が今回、通学定期の対象外とした施設は「サポート校」などと呼ばれる。必ずしも毎日通学しない通信制高校だが、JR東などは、卒業に必要な指導を受けるための施設に通う場合は、学校に準ずるとして取り扱ってきた。つまり、サポート校への通学でも通学定期を発行してきた。

イラスト:サポート校のイメージ

 しかし、文部科学省は2021年に、サポート校を「学習等支援施設」とし、卒業に必要な単位を取得するために通う「面接指導等実施施設」と区分する省令改正を行った。JR東は、これを受けて「学習等支援施設は単位認定等の業務が実施できないと役割が明確化された」ため、通学定期の対象外としたという。

 同社は、該当する通信制高校に通学定期の対象外とすることを昨年12月と今年2月に書面で連絡した。だが、ホームページなどで広く周知しなかったため、多くの通信制高校入学者には「寝耳に水」となった。

文科省は「対象」とするよう求める

 また、通学定期発行停止の引き金となった省令改正について、文科省は「教育環境を整えることが目的で、通学定期の停止は想定していなかった。意図とは異なる」(担当者)と困惑。同社に対し通学定期の対象とするよう求めていた。

 本紙は同社に今月24日に取材。当初は発行停止の方針は変わらないと回答していたが、26日になって「停止の延期を検討している」と連絡があった。理由については「さまざまなご意見を踏まえた」としている。

 4月から通信制高校に子どもを通わせる別の保護者は「入学先を決める際、費用は重要な検討ポイント。もっと前に通知するべきだった。さらにそれが一転した。批判されると思ったのかもしれないが、あさはかな運営だ」と一連の対応に不信感を募らせている。

「時代に逆行する差別的な施策」

 今回、一部生徒に通学定期が発行されなくなる可能性もあった通信制高校は近年、学校数や生徒数が増加している。

 2000年は113校だったが、24年には303校へ増えた。生徒数は約18万2000人から約29万人に。小中学校で不登校となる児童・生徒は増加傾向にあり、全日制高校になじまない生徒の多くが、通信制に入学しているとみられている。

 通信制高校で15年間、教壇に立ったことがある星槎大の手島純教授(教育学)は「不登校の子を中心に、今や通信制高校が日本の公教育を支えている面もある。サポート校も単位を認定されないかもしれないが、大きな役割を担っている」と解説する。

 JR東が一時、通学定期の発行を停止する方針だったことについては「高校の無償化など、保護者への負担を減らそうとしている今の流れに逆行する。通信制高校への差別的な施策でもあり、偏見につながらないか心配だ」と言い、延期ではなく撤回を求めている。

元記事:東京新聞デジタル 2025年3月31日

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  • m2 says:

    うちの子通信制だけど定期普通です。私鉄だから?なんか納得行かない。

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  • 匿名 says:

    引き金となったのは文科省令の改正と記事にあります。
    意図したか、しないかは分かりませんが、昨今の通信制高校人気を思わしくないと考えている文科省によるいやがらせと思われてもしかたがありません。

    そもそも、なぜ通信制高校が人気になっているのか、なぜ通学制の不登校や退学者が多いのか、文科省によるお仕着せカリキュラム(学習指導要領)はいまの社会のニーズに合っているのか、口は出すけど予算は出さない文科省の害から教育を守るにはどうしたらよいか、について考えるべきなのである。

  • 匿名 says:

    記事を読んで驚いた。JR東の対応はお粗末であった。しかも抗議後の対応も「延期」だからね。

    これから通信制高校に通う生徒は増えこそすれ、減ることは考えられない。文科省は再度JR東に丁寧に説明し、「完全撤回」を求めるべきである。

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