乳幼児の貧血に注意 鉄分不足が「脳の発達に影響」 離乳食で摂取し、生後6カ月からヘモグロビン測定を

長田真由美 (2024年3月12日付 東京新聞朝刊)
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ラブテリが主催したヘモグロビン測定会の様子=2022年7月、東京都内で(ラブテリ提供)

 体がだるく、動悸(どうき)や息切れがしやすくなる「貧血」。主に体内の鉄分が不足することで起き、日本人女性の10人に1人ともいわれる。近年、乳幼児期の鉄分不足が、その後の成長や発達に影響を与えることが分かってきたが、日本では、子どもの貧血の実態を示すデータや研究は少ない。こうした現状を変えようと、女性と子どもの健康支援に取り組む一般社団法人「ラブテリ」(東京)が状況の把握に乗り出した。 

成長・発達が遅延する報告も

 貧血は、血液中の赤血球に含まれるタンパク質「ヘモグロビン(Hb)」の濃度が低下した状態。血液検査でHbの数値を調べれば分かる。Hbは酸素と結合して、赤血球が全身に酸素を運ぶ。Hbの合成には鉄が必要で、鉄が不足すると赤血球の質や量が低下して、体内の酸素が少なくなり、貧血の症状が出る。

 「乳幼児期に鉄が欠乏すると、脳の中枢神経系の発達に影響する」と、都内のクリニックに勤務する小児科専門医、吉澤和子さんが言う。運動能力や認知能力、社会性の発達などが遅延するという報告がある。一方で「乳幼児は、自分で症状を訴えることができないので気付きにくい」と指摘。血管が細いため血液検査も難しい。国内ではどれだけの乳幼児が鉄分不足による貧血なのかも分かっていなかった。

母乳に含まれる鉄分はわずか

 現状を把握しようと、「ラブテリ」は2020年から聖路加国際大と共に、神奈川、東京、大阪で生後6カ月から6歳未満の子ども220人と母親の貧血の実態を調査。この結果、世界保健機関(WHO)の貧血判定基準よりもHb濃度が低い子どもは全体の12.7%。その割合は1歳後半にかけて減少するが、5歳にかけて増える傾向だった。

 ラブテリの代表、細川モモさんによると、生後6カ月までは胎児期に母親から移行した鉄分が体内に存在するが、それ以降は低下。母乳には鉄分がわずかしか含まれていないため、離乳食を開始しないと鉄不足のリスクが高まる。

 厚生労働省が2019年に改定した「授乳・離乳の支援ガイド」でも、母乳育児の場合、適切な時期に離乳を始め、鉄分の供給源となる食品を積極的に摂取するよう促す。細川さんは「日本では食事が主な鉄分の供給源になっている。食事をつくる親への啓発も重要」と力を込める。

機器を使うことで簡単に測定

 一方、国際的には多くの国で主食や調味料に鉄分が添加されている。例えば米国やカナダ、英国は、国策として小麦粉に鉄分を添加。「日本はこうした取り組みがなく、子どもの貧血が重要な健康上の課題であるという認識が不足している」と訴える。

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指をクリップで挟むヘモグロビン測定機器(ラブテリ提供)

 ラブテリは、鉄欠乏を未然に防ごうと、生後6カ月から、積極的にHbを測定することを呼びかけている。2019年に医療機器として承認されたヘモグロビン測定機器を利用すると、指をクリップで挟んで約30秒待つだけで測れて痛みがない。ラブテリでは、測定できる催し「おやこ保健室」を随時、全国で開いている。

 自治体の乳幼児健診にも導入された。熊本県長洲町では2022年春から、7カ月、1歳6カ月、3歳児の健診で実施。管理栄養士の西川加織さんは「従来は採血のために医療従事者がいて、そのための時間の確保が必要だったが、機器を使うと簡単に測定できるので導入しやすかった」と言う。貧血が分かった場合は栄養の重要性について保護者に伝え、喜ばれているという。

 他にも関西や九州のドラッグストアなどで機器の導入が進んでいるといい、細川さんは「測定の機会が全国に広がってほしい。データを解析して実態を顕在化し、社会を変えていきたい」と話す。

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