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差別、分断…「それでも友達」。子どもの姿には、大人が学ぶことがたくさんある〈ブレイディみかこさんインタビュー〉

(2019年8月3日付 東京新聞朝刊)

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 英国で保育士として働きながら社会の格差や分断を描いてきたブレイディみかこさん(54)。その視点は一貫して、社会のひずみが生み出す最も弱い立場の人たちの側にある。今の政治や社会を鋭く批評しながらも、「未来はそんなに悪くない」と感じられる理由は、子どもたちの存在だという。息子が通う中学校を舞台にした『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の出版を機に、英国、そして日本の子どもたちを取り巻く現状について話を聞いた。

英国の苦しい現状 「後ろの子たち」を大人がサポートしなければ

 -新著『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)は、中学生になった息子と友人たちの日常を描いた作品です。

 息子が通う地元の公立中学は「元底辺」校。少し前は白人労働者階級の子たちが通う荒れた学校でしたが、今は中くらいのランクに。貧困やいじめ、レイシズムもあるけれど、子どもたちが経験していることは、リアルな社会を色濃く反映している。プレ思春期の子どもたちは、友達はどうしてこんなに貧しいんだろうとか、この差別をどう乗り越えて仲良くできるのかとかいうことを考え始めている。その姿に、大人が学べることがたくさんあると思ったんです。

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英国と日本の子どもたちが置かれた状況について語るブレイディみかこさん(中西祥子撮影)

 -教育熱心な家庭の多いカトリックの小学校時代とは、ずいぶん雰囲気が違ったようですね。

 見学会でいきなり生徒たちのパワフルな楽器演奏に出迎えられ、廊下にはブリティッシュロックの名盤のジャケットが並んでいて。息子には「母ちゃんはこういうの好きなんだろうな」と濃厚に伝わっていたと思いますが(笑)、最終的には彼自身がこの学校に行くことを決めました。

 ハンガリー移民の両親を持つダニエル君が、黒人や移民の子に差別発言をして、まじめなうちの息子とけんかになったりするんだけどそれでも友達。「それでも友達」っていうのはポイント。大人は「こう言われた、もう知らない」ってなるけど、子どもはなんか一緒にやっていくんですね。

 -国籍や家庭環境など多様な子どもたちがいるからこその葛藤がある。公立学校の意義ってそういうところにあるのかなと。

 英国には公立の宗教校があります。市の公立校トップのカトリックの中学校では、教室の前と後ろが断絶しているように見えました。前方ではまじめで優秀な子が先生と授業を進めている。でも、後ろの方で勝手に雑誌を読んだりスマホを見たりしている子を先生はしかりもしない。ところが息子の今の学校は、授業に集中できない子は廊下にある丸テーブルで、別の先生がついて勉強している。これって教育のあるべき姿だと思うんです。

 でも、後ろの子が捨てられる教育現場が多くなっている。英国は2010年に保守党政権になってからの緊縮財政で、先生の賃金も凍結され、自治体から学校への補助金も減ったり、1クラスの人数が増えたりと学校は苦しい状況にある。それでも、後ろの子たちを押し上げようとする大人がいるんだ、という環境で子どもたちを育てなければ、社会はシニカルになっていきます。

日本の保育士の配置基準に疑問…政府は子どもを人間として見ていない

 -緊縮財政のしわ寄せがあるとはいえ、考えの違う相手の立場で考えさせる「シチズンシップエデュケーション」など大切な教育がなされています。

 声を上げたり、意見を聴いてもらったりする「子どもの権利」を小学生から繰り返し教えるんですよね。学校に『遊ぶことは子どもの権利』って書かれたポスターを張っていたり。保育園でも学期ごとのリポートに子どもの意見を書く欄があります。字が書けない年齢の子にも「何が楽しい?」などと聞き取ります。

 性の多様性についても、今はLGBTに加え、自らの性に確信が持てない人らも含めた「LGBTQ」まで学校で習う。本にも書きましたが、息子の仲間同士の会話で「僕はまだ決められないQかな」って言った子に「焦って決める必要ないよ」と仲間が答える。私たちやその次の世代にはなかった感覚を彼らは持っているんだと感じます。

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 -英国の今を日本に伝え続けています。

 日本はいい意味でも悪い意味でも英国を追っている気がします。専門家や学者が語るニュースだけでは分からない地べたの人たちの実情や取り組みも伝えなくては、一つの国の情報として完全でないと思うから。

 日本ももっと、子どもを大切にすべきです。日本の政府って、子どもを人間として見ていない気がする。保育所を見学したとき、3歳児20人に保育士1人という基準に驚きました。保育で大切なのは、子どもをじっくり観察してそれぞれの発育を促す遊びをデザインすることなのに、この基準ではとてもできません。英国では1人がいったん通常の保育から離れて、1、2時間じっくり自分のクラスの子どもたちを観察することができるくらい保育士の配置に余裕を持たせています。

 -「地べた」から政治や制度のありようを見つめる姿勢はどう培ったのですか。

 保育士資格を取るためのリポート作成の経験が大きかった。実践が法的フレームワーク(枠組み)にどうつながるのか、そもそもそのフレームができた背景にどんな運動があったのかまで理解して書くよう求められました。

 貧しい人がいたとして、助けてあげましょうだけではなく、どうして貧しい人が増えているのか、その背後にはどういう制度変更があったのか、それはどのような運動の結果できたのか。目の前で起きていることの背後にあるものを見るトレーニングになった。

 私自身、子どものころ生活は貧しかった。そのことをずっと、親がばかだからだ、能力がないからだ、と思ってきました。でも、英国に行って、考えは変わった。社会の制度や政治が貧困を作り出すし、放置していれば困窮する人たちが出てくるのだと。

多様性が大切という教育を受けた子どもたちが、問題を乗り越えていく

 -英国で暮らしてもう23年です。

 忘れちゃってますが、行って間もないころに出会った友達によると、当時私は口癖のように「日本は女の生きる国じゃない」と言ってたみたい。よほどむかついてたんじゃないですか(笑)。英国では女性だからというのはあまり感じずに来たけれど、ガラの悪い地域に住んでますから、人種差別的なことはしょっちゅう言われてきましたね。

 -日本で女性の生きにくさはなお残っています。

 根深いですよね。例えば社会問題を論じるアンソロジー本の執筆者に女性は私一人、なんてことが今もある。息子が「日本ってセクシズム(性差別主義)なの?」って。英国に生まれ育っている息子には異様に見えるようです。

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 日本の場合、女性のエンパワーメント(地位向上)も「嫌なことがあったけど、それを乗り越えて来た強い私すごいでしょ」みたいになりがち。「#MeToo」じゃなくて「#MeGreat(私はすごい)」っていうか。でも、今必要なのはソーシャルな女性運動。みんなで立ち上がるシスターフッド(女性たちの連帯)です。「MeGreat」に憧れたら、社会制度の欠陥はそのままで、私も強く乗り越えたいという方向にしかいかないから、生きづらくなる。女性たちの中にずいぶんマグマはたまっているだろうから、そのうちガツンと爆発するんじゃないかな。

 こうした問題も、根本的に変えようと思ったらやっぱり教育が大事だと思う。息子たちの世代は、多様性や社会的な包摂が大切、という保育や教育の改革が英国で行われた時代に育った人たち。大人たちが解決策が見つからない、としたり顔で言っているような問題も軽く飛び越えていくと思う。未来はそんなに悪くない。あの子たちを見ていると、そう信じられます。

ブレイディみかこ

 1965年、福岡市生まれ。福岡県立修猷館高卒業。音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、96年から英国ブライトン在住。ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち、英国で保育士資格を取得。2008年から、英国内で「平均年収、失業率、疾病率が全国最悪の水準」と言われる地区の無料託児所で働く。

 「最底辺保育所」とあだ名されたこの託児所に集まる子どもたちとの日々を描いた『子どもたちの階級闘争-ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)は17年に新潮ドキュメント賞を受賞。『女たちのテロル』『ヨーロッパ・コーリング』(ともに岩波書店)など著書多数。

インタビューを終えて

 ブレイディさんが描く子どもたちの姿は、苦境にあっても力強く、きらめきがある。そして、目の前の子どもたちの観察から、重層的な社会の課題を浮かび上がらせる。書くことが天職に見えるが「うーん、保育士の方が天職。ほんといい保育士だと思いますよ、私」と笑った。

 英国ではゼロ年代、粗野な振る舞いをする下層階級の若者という意の「チャヴ」という言葉が生まれた。今は差別語とされているが、ブレイディさんは彼らを取り巻く貧困などを「ポリティカルコレクトネスでは解決できない」と言い切る。リアルを解決するには、言葉を云々(うんぬん)するだけではダメ。そのメッセージをいつも突きつけられる。

 新潮社の『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー特設サイトで、「はじめに」と4話分が試し読みできます。

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