「ばい菌扱い」「卒園式を断念」相次ぐ医療従事者への差別 感染広げる”負の連鎖”を防ぐには?

藤川大樹、西川正志 (2020年4月17日付 東京新聞朝刊)
子育て世代がつながる
 新型コロナウイルスの感染が拡大する中、治療に当たった医師、看護師ら医療従事者やその家族が差別的な扱いを受けるケースが相次いでいる。「ばい菌扱いされた」「子どもが保育園への登園自粛を求められた」。各地の医療現場から悲痛な声が上がる。専門家は、未知のウイルスへの不安が差別や偏見を生み、結果的に感染を広げてしまう可能性を指摘。負の連鎖を断ち切る必要がある。
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医療従事者に対する差別など医療現場の実態について訴える日本医療労働組合連合会の幹部ら=東京都千代田区で

一生に一度しかないのに…  

 保育園の卒園式に行けません-。新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生した病院で働く50代の女性看護師は3月中旬、LINEで送られてきた同僚のメッセージに目を疑った。

 事情を聴くと、子どもを預けていた保育園から、遠回しに卒園式への出席を控えるよう言われたという。同僚は式への出席を断念。女性は「卒園式は一生に一度しかないのに。かわいそう」とつぶやく。

別居の家族まで出社停止

 この病院では、感染者が出たと報道された直後から、職員やその家族らに対する科学的根拠に基づかない差別や偏見が始まった。別居で1カ月以上顔も合わせていない父親が勤務先から出社停止を求められた、と訴えてきた看護師もいた。

 女性は「普段は患者さんから感謝されることが多く、『この仕事を選んで良かった』と思っていた。ただ、こういう事態が起きると、医療従事者は差別的な扱いを受けることがあるのだなと身に染みて分かった」と声を落とす。

病院側アンケートで4分の1が「自身や家族に風評被害」

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配偶者の勤務先から「感染していない証明書」要求

 医療従事者が風評被害を受ける事例は各地で起きている。

 関西地方の病院では、職員1人の感染を公表して以降、他の職員から「家族が差別を受けた」などの訴えが相次いだ。病院は外来診療や救急などを休止し、感染した職員と接触があった52人のPCR検査を実施。全員の「陰性」結果を待って診療再開したものの、事態は好転しなかった。

 病院側が差別の実態を把握するため、全職員を対象に行ったアンケートでは、回答した202人のうち、4分の1にあたる49人が「自身や家族に風評被害があった」と答えた。

 配偶者が勤務先から「新型コロナウイルスに感染していない証明書」を提出するよう求められたり、友人が2週間にわたり会社を休ませられたり。保育園から「役所と相談した結果、登園を控えて」と言われた女性職員が調べると、実際には役所は関係なく、園独自の判断だったと判明したケースもあった。

複雑…「詳しい情報がない中での不安、やむを得ない」

 病院の担当者は「4分の1の職員が差別を受けたという結果は悲しい」とする一方、「詳しい情報がない中で企業や保育施設が不安に駆られるのはやむを得ないとも思う」と複雑な心境をのぞかせた。

 病院や福祉施設などの職員らで構成する「日本医療労働組合連合会(医労連)」が行った緊急アンケートでも、「転勤する職員が引っ越し業者から断られた」「帰宅しても(家族から)『ばい菌』扱いされ、精神的に休息できる場がない」「感染者が出たことで、病院の近くの保育園が閉鎖された」などの報告が寄せられた。

 医労連の三浦宜子中央副執行委員長は「(医療従事者は)精神が追い詰められた中で医療活動をしている」と強調。「私たちも現場の実態を発信していきたい。国も感染症について正しく理解するよう啓発してほしい」と訴えた。

「見えないウイルスへの不安や恐怖が、差別を引き起こす」 日赤が啓発リーフレット

 スマトラ沖地震や東日本大震災など国内外で救援救護活動に当たってきた日赤の丸山嘉一・災害医療統括監は、見えないウイルスへの不安や恐怖が、人を差別的な言動へと駆り立てる、と分析する。

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日赤が作ったリーフレット「新型コロナウイルスの3つの顔を知ろう!」から

 新型コロナウイルスは目に見えず、ワクチンや治療薬が開発されていないことから、人々は強い不安や恐怖を抱く。恐怖心はニュースや他人の言動でさらに高まり、防衛本能を刺激。ウイルスに接触したとみなされる人を日常生活から遠ざけたり、差別的に扱ったりする現象が起きるという。医療従事者への差別は、西アフリカでエボラ出血熱が流行した際にも見られた。

 一方、差別をする人は自身にせきや発熱などの症状が出た際、逆に差別されることを恐れ、医療機関への受診をためらうケースがあるという。丸山氏は「差別はわが身に降り掛かり、結果的に病気をまん延させてしまう」と警鐘を鳴らす。

 日赤では、こうした「負の連鎖」を断ち切ろうと、臨床心理士を中心に医師や看護師、国際部の職員らが国内外の文献を参考にしながら、「新型コロナウイルスの3つの顔を知ろう!」と題するリーフレットを作成した。

 ウイルスへの不安を和らげ、心の健康を保つための処方箋として、
▽ウイルスに関する情報と距離を置く時間をつくる
▽普段の生活習慣やペースを保つ
▽差別的な言動に同調しない
―などを勧めている。

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コメント

  • 匿名 より:

    人権作文の参考になりました

  • 匿名 より:

    分かりやすく、差別のひどさが身にしみてわかりました  
    ありがとうございました。

  • 匿名 より:

    医療従事者への一部の保育園の誤った対応により現在全国の保育士が各メディアからバッシングを受けております。
    日本を支えるエッセンシャルワーカーとして新型コロナウイルスという共通の敵と戦っていると誇りを持ち消毒薬やマスクも不足している3密の環境で、感染の恐怖を振り払い保育に従事して来ましたが、政府広告8や各メディアの扱いは現場の士気を下げ保育崩壊に導くには十分だと思います。保育士にも人権を宜しくお願いいたします。

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