保育士が異色の兼業「いちご農園」 コロナで奪われた園児の笑顔を取り戻すために

渡部穣 (2023年1月6日付 東京新聞朝刊)
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イチゴを収穫する保育士の石村元さん=いずれも横浜市青葉区で

コロナ禍で体験行事ができなくなり

 「コロナになんて負けたくない」。川崎市多摩区の保育士石村元(げん)さん(37)が、昨年2月に「いちご農園 ピエノファーム」(横浜市青葉区)を立ち上げ、異色の兼業を始めたのは、そんな思いからだった。

 大学時代は競泳自由形の日本代表選手。大学院に進学して税理士となり、母親が経営する保育園と学童保育の経理を手伝いながら保育士の資格も取った。そんな中で起きた新型コロナウイルスの感染拡大。園の子どもたちが楽しみにしてきたキャンプや遠足、他の生産者の協力で行ってきた芋掘り体験もできなくなった。

 「自社施設で農業体験ができたら、子どもたちの笑顔を取り戻せるんじゃないか」。そこでひらめいたのがイチゴだ。約2000平方メートルの土地を購入し、ビニールハウス2棟を建てた。資金獲得のため、神奈川県のビジネスモデル転換事業補助金を申請。投資費用約5000万円のうち約3000万円は、この補助金で賄った。

朝採れイチゴ 地元のカフェも使用

 視察した山梨県や長野県の農家にアドバイスを受け、高額でも優良な苗をそろえたのが良かったのか、イチゴは順調に実をつけた。「甘くておいしいイチゴがこんなにたくさんできて、自分でもびっくり」。立派に育ったイチゴを見つめ、目尻を下げる石村さんだが、新たな課題を抱えた。

 それは、次から次へと実を赤くするイチゴの搬出先だ。昨年9月から、保育園出勤前の朝7時前から父親の豊さん(67)にも手伝ってもらい、パック詰めする。捨てるまい、と保育園の保護者らに販売し「いちご農園」ののぼりや看板も立てた。すると散歩中の住民たちから「イチゴを売ってるんですか」と声をかけられるように。「こんなに甘いイチゴは初めて」と笑顔が広がった。

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石村さんのイチゴを使ったパフェを作る中寺礼子さん

 うれしいつながりもあった。横浜市青葉区のカフェ「NAVY(ネイビー)」に、昨年12月から週400個ほどイチゴを納めるようになった。知り合いだったオーナーの中寺礼子さん(62)に売り込みをかけたが、「初めての挑戦だっていうし、最初は半信半疑だった」と中寺さん。ただ、石村さんのイチゴを切れば、甘い香りが厨房(ちゅうぼう)いっぱいに広がる。地産地消の朝採れイチゴは格別だ。「お客さまにも喜んでもらえて、ウィンウィンの関係ですね」

 ビニールハウスにコースを用意し、春先には保育園の子どもたちを招いたイチゴ狩りを計画する。豊さんには「いろいろな人たちと出会うきっかけになった」と喜ばれた。石村さんは言う。「始めてみるとみんな笑顔になってくれて(イチゴに)はまってしまった。喜んでもらえる生産者の気持ちが初めて分かって、新鮮な発見。挑戦してみて本当に良かった」

川崎市、横浜市のイチゴ農家

 「JAセレサ川崎」によると、10年前までは川崎市内でイチゴを生産している農家は「1、2軒程度」。それが今では12軒に増加。田んぼや露地野菜の畑からの転換が目立つという。横浜市でも状況は同様。地域別などのデータはないが、ここ5~6年、イチゴの生産を始めるための補助の申請が年に数軒ずつあるという。「水やりや温度管理を自動化するスマート農業への転換が進んでいる」「収穫体験型の農業が人気」「収益率が高い」などの理由が考えられると分析している。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年1月6日

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