「異次元の少子化対策」たたき台、保育士の配置基準は変えず 現場の反応「この程度では変わらない」 財源あいまい、時期は未定…

奥野斐、井上峻輔 (2023年4月1日付 東京新聞朝刊)
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園庭で子どもと遊ぶ菊地幹・東京児童協会事務局次長=東京都江戸川区の船堀中央保育園で(内山田正夫撮影)

30人から25人へ「運営費の増額」

 政府は3月31日、岸田文雄首相が掲げる「異次元の少子化対策」のたたき台を発表した。子育て施策の焦点の一つだった保育士の配置基準は変えず、保育士1人が受け持てる1歳児を6人から5人、4、5歳児は30人から25人にできるように運営費を増額する方針を示した。配置基準を変えると、保育士不足の現状では人員を確保できない保育所がでる可能性があり、基準の改定は見送った。保育現場からは「この程度では現状と変わらない」といった声も上がる。

保育士の配置基準とは

 保育士1人が受け持てる子の数を定めたもので、国が1948年に制定。保育所に支給される運営費のうち、人件費にはこの基準も反映される。1998年に0歳児の基準を「保育士1人で6人」から「3人」にしてから改定がない。

「20人以下に保育士1人」にしてほしい

 認可保育所「船堀中央保育園」(東京都江戸川区)を平日の午後5時ごろ訪ねると、4、5歳児20人ほどがブロック遊びやお絵描きをして保護者の迎えを待っていた。保育士は2人いる。でも「みてみてー」と呼ぶ園児に1人が向かい、お迎えの保護者にもう1人が対応すれば余裕はない。

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保育現場について話す菊池さん

 「基準を4、5歳児20人以下で保育士1人ぐらいに変えなければ、現場の負担感は減らない」。この保育園を運営する社会福祉法人「東京児童協会」の菊地幹さん(37)は話す。

都市部の自治体は独自に運営費を加算

 4、5歳児に対する国の配置基準は75年間も据え置かれるなど、人手が足りない現場のニーズを反映してこなかった。このため都内など都市部を中心に、自治体は独自の施策で運営費を加算。「自治体の補助金などを活用し、国基準を上回る保育士を置いている園が多い」と菊地さん。

 1歳児も江戸川区は「1歳児5人に保育士1人」の基準で園を運営するよう求め、独自に運営費を加算。今回、政府が示した改善後の水準を既に満たしている。菊地さんは「今回の改善は第一歩。基準の改定や保育士の労働環境の向上につなげてほしい」と求めた。(奥野斐)

識者の声「さらに質が下がる恐れ」

 ◇鶴見大の天野珠路教授(保育学)の話 保育は公的福祉であり、しっかり法律にのっとって配置基準を見直さなければ、さらに保育の質が下がる恐れがある。

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園児たちと遊ぶ菊池さん

「集中取組期間」と言いながら…制度も財源も説明なし

 政府が31日に発表した少子化対策のたたき台では、2024年度から3年間を「集中取組期間」と位置付け、「加速化プラン」を明記した。児童手当の拡充をはじめとする経済的支援の強化や、子ども・子育て世帯向けサービスの拡充などが柱だが、詳細な制度設計はほぼ先送りし、必要になる予算規模も明らかにしていない。いずれも実施時期は未定で、財源を確保できなければ実現に至らない可能性もある。

表 今後3年間で取り組む主なこども・子育て政策

児童手当は所得制限を撤廃

 たたき台は「試案」の位置づけ。児童手当については、現金給付が諸外国に比べて手薄だとして、所得制限を撤廃するとした。現在は中学生までの支給期間を高校卒業まで3年間延長することも掲げた。さらに多子世帯の増額方針も打ち出したが、財源のめどが立っていないため、具体的な加算額は示していない。

 若い世代が希望に沿って結婚、出産できる環境整備の一環で、男女とも約1カ月間に限って育休給付金を手取り額十割相当に引き上げたり、自営業者やフリーランスを対象にした育児期間中の国民年金保険料免除制度を創設したりすることも盛り込んだ。しかし、既にある仕組みの手直しになるとみられ、少子化の傾向を反転させる効果は見通せない。

「6兆円が必要」との見方も

 自民党から要望があった出産費用の保険適用や学校給食費の無償化もメニューに加えたが、「検討」や「課題の整理」にとどめている。政府関係者は、2026年度までの実現に懐疑的だ。

 「加速化プラン」の全ての施策を始めるだけでも、新たに必要となる予算は「国と地方で6兆円」(与党幹部)という見方がある。政府は近く、首相の下に新たな会議体を設置し、施策の具体化や財源の確保策の検討に着手するが、負担増の議論になれば、国民の反発も予想される。(井上峻輔)

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年4月1日

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  • 匿名 says:

    防衛費のことでは財源について言及しないのに社会保障、医療、厚生など、国民の生活に直結するとこについて出し惜しみする自民党に政権握らせてるんだから国民が望んで自滅への道を歩んでいるようにしか見えない

  • 匿名 says:

    保育がどうこうじゃないとおもうけどね。

    そもそも子育てを他人にしてもらおうと言うのがまず間違い。シングルさんは仕方ないよ。それでもだと思う。この日だけとか、週に数回程度シッターとしての保育の利用を前提として、あくまで、一時的にが現制度の限界だと思う。保育士の給与面、保育料、質どれをとってもね。

    誰でも入れてってするなら、学校じゃないですかね。ほんと。配置人数、給与、質共にちゃんとしてよね。

    人間として生物として、子育て以上の仕事なんて無い。働きたい女性が働ける社会はいいことですよ、しかし、働かないといけない社会はだめですよ。

  • まっち says:

    幼児教育がどの職業と比べても基本給が安いのは何故ですか、三十年勤務していますがずっと低空飛行。ただ遊んでいるのではありません。年齡にあった活動の為に体力と気遣いと知識とアイデアがいる大事な仕事です。欧米では教員と同じかそれ以上の待遇です。どんなに保育の仕事が好きでも離職が防げません。保育士が不足しているのに働いてなくても預けるなんて誰の為にもなりません。子どもの心は置き去り。天塩にかけて子育てする時期に楽をして後でしっぺ返しきます。

    まっち 女性 50代
  • くうぽん says:

    単純に…
    何処の誰が一人で朝から夕方までの時間、
    〇歳児を3人、一歳児を5人…と、見る事ができるのですか?
    そんな事出来る人いますか?
    保育士、トイレはいついくのですか?
    昼休憩の1時間ってどの事ですか?
    丁寧な保育ってなんですか?
    本当にですか?だらけです。
    このままだと悲しい事、続きますよ。
    子ども達のみならず保育士の中ににも。
    すでに心がズタズタになって現場から離れていく保育士さん何人も見ています。
    気丈な精神を持っていても長年の時間差勤務は身体を蝕む原因の1つになっています。
    今一番変えていかなければならないと誰もが解ってるのにどうしてなのでしょうね。
    人に関わることはいつも後回し。悲しい事に、この国の悪い癖です。

    くうぽん 女性 60代
  • いつか自分で保育園を says:

    保育士25年。若い頃は自分の子どもは自分で育てたいと思う気持ちが強く、一旦保育から10年離れ自身の子育てに専念しその後復帰しました。

    自身の子育てで学ぶ事は多く、いざ現場に戻ってから役に立つ事がたくさんありました。子育ての大変さを実体験した事によって、園児さんの保護者さんに寄り添うことができました。

    保育士として経験を重ねれば重ねる程、自身で保育園を立ち上げたいと思う気持ちが強くなりました。しかし、認可保育園設置の壁が思いの外厚く悪戦しているのが現状です。設置の条件として、保育園経営の実績がある事です。残念ながら保育士25年の経験は全く認めてもらえません。なら、どうしたら良いのか、、

    無認可の保育園から経営し実績を積んだ上で認可保育園を作る事も考えましたが、、無認可保育園は国からの補助金が無く運営するのは大変苦しいのです。
     
    自分で保育園を作りたいと思う純粋な夢は、叶えるに時間がかかりますが諦めずに、いつか保育園を立ち上げたいと願うばかりです。

    いつか自分で保育園を 女性 50代

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