家庭内の意見対立に「交渉術」を取り入れよう 「奪い合い型」が「価値創造型」になればWin-Win

(2022年6月10日付 東京新聞朝刊)
 「旅行はどこにしよう」「外食は何を食べようか」「進路はどうする?」―。家庭生活を送る中で、親子や夫婦、きょうだい間で意見が対立する場面はよくある。そんな時、ビジネスや訴訟などで互いの利害を調整する際に使われる「交渉術」を取り入れてはどうだろう。大切なのは対話を通じて信頼関係をつくり、協力して問題解決に向かうことという。

図解 3つの交渉タイプ「価値創造型」「価値交換型」「奪い合い型」

宿題をやらない長男が「ゲーム買って」

 「交渉は相手と信頼を築く力であり、他者とともに生きる知恵。お互いの問題解決を図る質の高い合意『Win-Win(ウィンウィン)』が理想です」。交渉力を高める知識や技術の普及を目指すNPO法人「日本交渉協会」代表理事の安藤雅旺さん(54)は説明する。早速、家庭で起きそうな場面を想定し、具体的な方法を見てみよう。

 共働き夫婦と小学5、2年の兄弟の4人家族を例に考える。かつては一緒にスポーツを楽しむなど仲が良かった夫婦だが、最近は夫の帰宅が遅く、会話も少ない。長男は宿題もろくにせず、次男は「最近、家では誰も遊んでくれない」と寂しく感じている。そうした中、長男が両親に「ゲームを買って」とせがんだら?

 安藤さんによると、交渉には段階を追って「奪い合い型」「価値交換型」「価値創造型」の3つのタイプがある。

力の差で屈服「奪い合い型」は信頼低下

 「奪い合い型」は、限られたパイを奪い合う、勝つか負けるかの交渉。自分の要求をいかに相手にのませるかを目指す。「遊んでばかりで勉強しなくなるからゲームなんてダメ」と、親が頭ごなしに言うのは奪い合い型だ。「力の差を利用して相手を屈服させる交渉術」と安藤さんは言う。この方法を使うリーダーは多いが、服従させられた側には不満が残り、信頼が低下する。「こうした交渉によって成り立つ共同体は、いずれ弱体化していきます」

 家庭でゲームを買うか買わないかを交渉する際は、なぜ欲しいのかなど、まずはその背景を互いにしっかり聞くことが大事だ。たとえ奪い合い型の交渉であっても、親として譲れない合理的な理由があるのなら、それをしっかり伝えよう。

 続いてレベル2。「毎日1時間勉強するなら、買ってもいいよ」などと子どもに言う「価値交換型」だ。長男はゲームを手に入れ、親は長男に勉強を習慣化させるきっかけをつくることができる。互いの利害の違いを利用して、上手に価値を交換する方法だ。

共通の目的を軸に据える「価値創造型」

 最も質の高い「価値創造型」は新たな解決策を生み出すことを目指す。立場や価値観の違いを乗り越え、共通の目的という「志」を軸に交渉する方法だ。例えば、夫婦間の会話が減っている、誰も遊んでくれないと感じている次男の不満も基に「家族だんらんの場をつくり、絆を深める」という志を軸にすると?

 親は「家族みんなでスポーツができるゲームを買ってやらない?」と提案。実現するには、夕食後に長男は1時間勉強、父親と次男は母親がやっていた後片付けなどを一緒にする。それが終わったら4人で毎日1時間ゲームを楽しむ-という具合だ。妻は「子どもたちにスポーツの腕前を見せられるチャンス。早く帰ってきて」と夫に帰宅を促すこともできる。家族の一体感を強めるだけでなく、4人それぞれがメリットを感じられる解決策だ。

 とはいえ、人間はどうしても「奪い合い型」に陥りがちだ。安藤さんは「『名交渉者』になるには訓練が必要。どうすれば問題を一緒に解決し、合意に至れるか、家庭にも訓練の場面はたくさんあります」と呼び掛ける。

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