「初めて唐揚げを食べた」と泣く家族も… 子ども向け嚥下食弁当「もぐもぐBOX」 日本料理店が研究者とともに開発

水越直哉 (2023年5月24日付 東京新聞朝刊)

唐揚げやスパゲティなどが入った子ども向け嚥下食弁当「もぐもぐBOX」

かんだり飲み込んだりが難しい子に

 食べ物をかんだりのみ込んだりすることが難しい人に向けて市販される「嚥下食(えんげしょく)」は高齢者用ばかり-。そんな声を受けて、愛知県犬山市の日本料理店「関西」が、子ども向けの嚥下食弁当「もぐもぐBOX」を完成させ、4月から販売をスタートした。メニューは子どもたちが大好きな唐揚げやスパゲティなど。これまで旅行や外食が難しかった家族が喜ぶ「お子さまランチ」ができあがった。

高齢者向けではないものを作りたい

 関西は5年前から、嚥下障害のある人に食を楽しんでもらおうと、豪華な見た目と味を維持しつつ、のみ込みやすい弁当作りに取り組んできた。昨年から「口福膳(こうふくぜん)」として販売。ただ、メニューは照り焼きや煮物、里芋まんじゅうなど、高齢者を意識した内容となっていた。

 「子ども向けの嚥下食を作ってくれませんか」。昨年6月、嚥下障害のある子どもの親でつくる一般社団法人「mogmog engine(モグモグ エンジン)」(千葉県)から提案を受けた。同法人は東京都や東京大、東京医科歯科大の研究者らとインクルーシブ(誰も排除しない)フードの開発に取り組んでいるという。関西の小島健一社長(46)はこれを快諾し、仲間に加わった。

全ての食材をペースト状にして成形

 開発の中心になったのは猿橋央志(ひさし)料理長(53)。舌と上あごですりつぶせるほどのやわらかさが大前提で、全ての食材をペースト状にした上で成形している。唐揚げなら鶏肉を一度すりつぶした上で、固くならないように、からっと揚げた。スパゲティはゆでた麺をペースト状にして、袋に入れて1本1本絞り出した。

試食する子どもを見つめる(左から)猿橋料理長と小島社長=愛知県犬山市で

 メニューはほかに、サーロインステーキに、厚焼き卵、かれいの照り焼き、クリームドリアも。国旗を立て、クマの形のウインナーを添えるなど、子ども心をくすぐる見た目にもこだわった。当事者や研究者の意見も採り入れて完成させ、2月に東京で開いた試食会では「初めて唐揚げを食べた」と泣く家族も。小島さんたちも涙が出たといい、以来、「親泣かせの唐揚げ」と呼んでいる。

1個2200円、冷凍で全国に発送可能

 4月下旬には犬山市内の多機能型重症児デイサービス「ここぱーくももか」で試食会があり、5人の子どもたちが「もぐもぐBOX」を味わった。豪華なお子さまランチを見て、親たちは「すごいね」とにっこり。あっという間に平らげる子どもを見て、驚きと喜びの表情を浮かべる人も。

 普段ペースト状の食事が中心という下深迫花音(しもふかさこ かのん)ちゃん(4つ)の母あゆみさん(35)は、「いつも買う嚥下食は大人向けばかりで、そもそも外食も難しかった。これならみんなで集まって食べる時とかに楽しめそう」と話した。

 小島さんは「意思疎通が難しい子でも、パクっと食べたら笑顔になる。あの瞬間が本当にうれしい。全国の皆さんに食べてほしい」と話している。もぐもぐBOXは2200円で、冷凍の状態で全国に発送可能。関西が運営する口福膳のホームページで購入できる。

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