災害時に役立つ乳児用液体ミルク 備蓄は東京23区中15区どまり 課題は価格と賞味期限

嶋村光希子 (2023年9月2日付 東京新聞朝刊)
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液体ミルクで赤ちゃんに授乳する様子(明治提供)

 災害時の断水や停電でもそのまま飲める乳児用液体ミルクについて、東京23区で既に備蓄もしくは予定している自治体が15区にとどまることが、東京新聞の調べで分かった。ネックだった賞味期限の短さは改良されつつあり、備蓄の広がりが期待されている。
◇東京23区での液体ミルクの備蓄
備蓄あり 中央区、港区、新宿区、文京区、品川区、中野区、杉並区、豊島区、北区、荒川区、練馬区、葛飾区、江戸川区
墨田区と江東区(予定)
備蓄なし 千代田区、台東区、目黒区、大田区、世田谷区、渋谷区、板橋区、足立区

ローリングストックで乳児院などに配布

 液体ミルクは外出や夜間授乳時の便利さによる育児の負担軽減で需要が高まり、防災面でも注目される。内閣府は2019年、都道府県などに災害用に備蓄するよう要請した。

 23区で乳児用液体ミルクを備蓄しているのは新宿区、文京区など15区(うち2区は予定)。使いながら買い足す「ローリングストック」という手法を取り、賞味期限(半年~1年)が迫った液体ミルクは乳児院や保育園などに配布している。東京都も5000本以上を備蓄し、千葉県や熊本県の災害現場に救援物資として届けてきた。

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明治の「ほほえみ らくらくミルク」(左)とグリコの「アイクレオ 赤ちゃんミルク」(提供写真)

賞味期限が粉ミルクと同等の商品も登場

 一方、備蓄していないのは世田谷区や大田区など8区。粉ミルクよりも入れ替えが頻繁になることや、価格が2~3倍と割高なことを理由に挙げる。台東区のように備蓄はしていないが、災害時にドラッグストアから調達を受けられる協定を結んでいる区もある。

◇液体ミルクの特徴
メリット ・お湯の調乳が不要
・災害時に断水や停電してもそのまま飲める
・常温で保存が可能
・外出時の荷物が減る
・時短になる
・母以外の父や祖父母らも授乳しやすい
デメリット ・価格が割高
・賞味期限が半年~1年と短い(粉ミルクと同等の1年半の商品もある)
・かさばるため保管場所やごみのスペースが増える

 液体ミルクを製造する明治と日本気象協会などが全国の1741自治体を対象にした今年6月の調査では、回答があった474自治体のうち47.5%が備蓄。2020年1月の調査の12.3%から大幅に伸びたが、半数弱にとどまる。

 明治はネックだった賞味期限を粉ミルクと同等の1年半まで延ばした商品を開発した。担当者は「メリットを伝えることで備蓄がより広がってほしい」と話す。

まずは母乳育児が継続できる支援策を

◇東京北医療センターの小児科医・奥起久子(きくこ)さんの話 液体ミルクは災害時には有用だが、飲む容器の清潔さなどの課題も伴う。まずは最大の防災対策でもある母乳育児を継続できるような支援策が必要で、人工乳の備蓄だけでなく避難所内の授乳スペースなども重要だ。

乳児用液体ミルクとは

 お湯で溶かす必要がなく常温で保存できる。2016年の熊本地震でフィンランドから緊急輸入され利便性が注目された。厚生労働省が2018年に省令改正し、国内での製造・販売を解禁。2019年3月に江崎グリコが紙パック、明治がスチール缶で販売を始め、雪印メグミルクと森永乳業も手がける。日本能率協会総合研究所は、市場規模が2020年度の12億円から、2026年度には16億円に拡大すると予測する。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年9月2日

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