親子の会話に、夏休みの自由研究に… 『校閲記者の日本語真剣勝負』で日本語を楽しもう

子育て世代がつながる

校閲記者たちが書いた『日本語真剣勝負』

 もうすぐ夏休み。いつもより親子で過ごす時間が増える、という家庭もあると思います。東京すくすくから、日本語の面白さや難しさなどについて東京新聞の校閲記者たちが書いた『校閲記者の日本語真剣勝負』(東京新聞、中日新聞編)を紹介します。言葉の由来や使われ方、移り変わりなど日本語の面白さや難しさについての興味深いエピソードが満載。親子の会話のきっかけや、夏休みの自由研究のヒントにもなるかもしれません。執筆メンバーの2人の記者に話を聞きました。
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校閲部の重松洋一記者㊧と佐藤京次記者

 新聞社の校閲部で働く記者たちは、取材記者が書いた記事をチェックし、漢字や言葉遣いの間違いなどを見つける言葉のプロです。今回話を聞いたのは、東京新聞校閲部の佐藤京次記者(59)と重松洋一記者(49)の2人。子どものころ百科事典を読むのが好きだったという佐藤記者。重松記者は小学生のころ、人名事典を読むのに夢中だったそうです。

似ているけれど、違うんです

 2人がまず面白い例として紹介してくれたのが、似ているので何気なく使っているけれど、本当は意味の違う言葉を見つけてみることです。たとえば…。

シャベルとスコップ

 イモ掘りの時に使う道具のことを「シャベル」と呼びますか、それともスコップ?「シャベルとスコップは、地方によって指す道具が違うんです」と重松記者。雪国で雪かきに使うような大きいサイズのものをシャベル、小さいサイズをスコップと呼ぶ地域もあれば、その逆の地域もあります。新聞でも、東海地方の幼稚園のイモ掘りの時に園児たちが使っていた道具を「スコップ」と表記していた記事がありましたが、校閲部の東北地方出身の人から「え?あんな小さいのがスコップ?」と疑問の声が上がったそうです。

雪かきに使うコレ、シャベル?スコップ?(2018年2月撮影)

 重松記者は、「こういう言葉は一度、語源を調べてみると面白いですよ」と勧めます。スコップは実はオランダ語。江戸時代に長崎・出島に入ってきた時には、「asschop(アススコップ)」といい、炭火を載せるヘラとして使う小型のものを指していたそうです。

 一方、シャベルは英語で、辞書を引くと「大型の」道具として紹介されています。現在、日本産業規格(旧・日本工業規格)は、さじの部分の肩を足で押せるものをシャベル、肩が丸く足で押せないものをスコップと定めています。ちなみに、大きい方を指す英語には、トランプカードの「spade(スペード)」という言葉もあるそうです。

元日と元旦

 「元旦の朝にお雑煮を食べました」。この文章は正しいでしょうか。実はこれは間違い。元旦の「旦」に注目してみましょう。「日(太陽)」が「一(地上)」に現れる様を表現していて、意味も「夜明け」や「朝」のことです。つまり、元旦は「元日の朝」のことなので、「元旦の朝」というのは、重複表現になってしまい、正しくありません。

 でも、佐藤記者によると、今は「元旦」を「1月1日」と同じ意味であると記しているよう辞書が多いそうです。「漢字の意味を調べてみることで、単語の意味を理解できることも多いですよ」

言葉は変化していくものです

ら抜き言葉

 本来、「見られる」「来られる」「起きられる」と言うべきなのに、「見れる」「来れる」「起きれる」などとする「ら抜き言葉」。もう、ずいぶんと社会に広がっていますよね。

 「大正時代の終わりごろにはもう『ら抜き言葉』が出始めていたようです」と重松記者。1923(大正12)年の関東大震災の後、東京にできた新しい住宅に地方から上京した人たちが暮らすようになったことで持ち込まれたとしている文献もあります。昭和初期には小林多喜二の『蟹工船』など、小説などにも「ら抜き言葉」が出てくるようになり広がる一方、「言葉の乱れだ!」と批判も強くなっていきます。

 新聞では今も使わないことになっていますが、「話し言葉やメールなどでは市民権を得ているのでは」と重松記者。これからどうなっていくのでしょうか。

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校閲の仕事をする重松記者(手前)と佐藤記者(奥)

全然

 「フルマラソン、疲れた?」「とても」―。この会話の「とても」は「とても疲れた」という意味だと分かります。では、「フルマラソン、疲れた?」「全然」だとどうでしょう。「全然疲れなかった」という意味だととらえますよね。

 でも、「全然」はもともと、肯定の意味でも使われていた言葉だということはあまり知られていません。「全然疲れた」という言い方も実はOKなのです。最近では、「非常に」という意味で、「全然美しい」「全然楽しい」などと言う人も。佐藤記者は「時代によって使われ方が変わっていく言葉もたくさんあります」と話しています。

早口言葉を作ってみよう

 最後に佐藤記者が「低学年の子たちが言葉の面白さを感じるきっかけになれば」と絵本を紹介してくれました。佐藤さんもお子さんたちの子育て中によく読み聞かせた「どうぶつはやくちあいうえお」(作・岸田衿子、絵・片山健 のら書店)です。

 「あんぱんぱくぱくぱんだのぱんや」「いかにかにがちょっかいいかいかったいかった」「はげたかいつはげたかげたはけたか」。声に出して読んでみてください。どこで区切ったらいいか、分かりますか。

 この絵本は「あ」から「わ」までの動物を題材にした言葉遊びです。親子で何か題材を決めて、こんなふうに早口言葉を作ってみるのも面白いかもしれませんよ。

【2019年7月17日 追記】文中にあった「日本工業規格」は2019年7月、「日本産業規格」に改正されました。「日本工業規格」と記述していた部分を書き換えました。

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