母のひと言に今も苦しんでいます〈宮里暁美の子育て相談〉

(2025年8月8日付 東京新聞朝刊)

不安で、自分が子育てをするイメージが持てません

 「あなたなんて、生まれてこない方が良かったのよ」という母のひと言に苦しんできました。気持ちが落ち込んだとき、母の言葉がよく浮かんでくるのです。

 私は未婚で子育て経験もありませんが、自分が母になったときに同じようなことを言ってしまう気がしていて、子育てに積極的なイメージを持てません。(30代女性)

イラスト

イラスト・永須華枝

これまでのうれしい記憶を探して

 いただいた質問を何度も繰り返し読んでいます。悲しくてつらい記憶を話してくれてありがとう

 こちらのコーナーは「子育ての相談」ですが、今回は「育てられた時の記憶」についての大切な相談だと受け止めました。

 親が子どもに向けて放った心無い一言が子どもの中に残り、子どもを苦しめ続ける。そして「自分が親になった時、同じことをするのではないか」という不安にもつながってしまう。これほど大きな罪はありません。

 あなたのお母さんは、なぜあなたのことを「生まれてこない方が良かった」と言ったのでしょうか。それを今、問いただしたとしても、お母さんは覚えていないかもしれません。あるいは、お母さんからその理由を聞いて、あなたがもっと嫌な気持ちになるかもしれません。

 いずれにしても許されない一言であることに変わりはありません。

 「親」の一人としてあなたに謝りたいです。「生まれてこなければ良かった」という言葉があなたをずっと苦しめていたことを知って、本当に申し訳なく思います。本当にごめんなさい。

 あなたはやさしい子に育ちました。だから安心して。あなたは大丈夫、いい親になれますよ、と。

 一つ提案です。

 これまで大きくなってきた人生の中で、うれしい記憶や情景を探してみませんか。家族だけではなく、友達や地域との関わりの中で、ほっとしたり、うれしかったりした記憶を思い出してみてください。そして、そんな気持ちで今日や明日を過ごしてください。

 「うれしい記憶やうれしい情景」が、あなたの今、そして明日をつくります。

 人生はまだまだこれから。あなた自身をいっぱい愛して、あなたのそばにいる人を愛して、あなたらしく過ごしてください。

(文京区立お茶の水女子大学こども園・前園長、お茶の水女子大学特任教授)

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