「子どもが楽しむことが第一」のスポーツチームが増えてます ミスを責めない学童野球、親の当番もなし

対比地貴浩、森合正範 (2022年5月5日付 東京新聞朝刊)
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練習中にコーチとコミュニケーションを取る=いずれも東京都内で

 楽しむことが第一で、勝利は二の次-。小学生の軟式野球で、こうしたスタイルのチームが少しずつ増えている。東京都練馬区を拠点とする練馬アークス・ジュニア・ベースボールクラブは、その一つ。チームを昨春に発足させた中桐悟代表(38)は「気軽にやりたい子どもの受け皿になりたい」との思いを抱く。(対比地貴浩)

「のび太やカツオのように楽しくやろう」

 真っ青な空が広がった先月30日。ノックを受ける子どもたちから笑顔が絶えない。好捕には「ナイスプレー」と仲間のたたえる声が飛ぶ。捕り損ねても、やじや怒声は皆無。代わりにコーチから「捕れると思ったら声を出そう」「もっと腰を落として」と、プレーの改善につながる具体的なアドバイスが送られる。

 練習は基本的に週末に1度、半日だけ。それも、家族旅行など他に優先すべきものがあれば休んで構わない。高圧的な指導や罰走は禁止。試合会場への送迎や審判、お茶の準備など、慣例で保護者が担っている負担もなくした。「楽しむ」というスローガンを掲げるだけでなく、実践できる環境づくりに努めている。

 「のび太やカツオのように草野球をみんなで楽しくやろう、がコンセプト」。中桐代表は人気アニメを引き合いに出す。

親として納得できるチームが見つからず…

 原点は苦い実体験にある。故郷の三重県紀北町の中学で野球を始めたが、「部活の顧問が絵に描いた昭和の体育会系だった」。県大会出場に血道を上げ、「死ね」「へたくそ」の罵声や暴力も日常茶飯事。「そのくせ何も教えない。野球が嫌いになった」。高校で野球から離れた。25歳のとき、ミスを責めない草野球チームに入り、白球を追う醍醐味をようやくかみしめた。

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ノックを受ける練馬アークスの選手

 練馬アークスの発足は、小学生の長男が野球をやりたがったことが契機となった。親として納得できるチームを見つけられず「それなら自分でやるか」。旧態依然の運営にすでに別れを告げていたブエナビスタ少年野球クラブ(川崎市)などの先例に学び、昨年3月に始動した。

 大半のコーチが公認指導者資格の持ち主。時間は短くても中身の濃い練習を心掛けている。看護師免許を持つコーチもおり、万一のリスク管理も徹底する。月会費は7300円と高めだが、当初30人に設定した定員は埋まり、先月末時点で39人。予想以上の反響があり、現在は募集を停止している。

子どもが真ん中に「エンジョイだけでも」 

 全日本軟式野球連盟によると、2021年度の小学生チーム数は1万229。統計上のピークである1980年度の3分の1程度に減った。要因は少子化や野球人気の低下だろうが、中桐代表は「興味のある子は今も多いけど、古い指導が敬遠されている」とチーム側にも問題があると指摘する。実際、他チームの子どもの親から「助けてください。このままでは野球が嫌いになる」と入会希望のメールが届いたことがあった。

 先月から、志を同じくするチームとリーグ戦で切磋琢磨(せっさたくま)する。練馬アークスにとって、初の対外試合。リーグ名は「PCG(プレーヤーズ・センタード・ゲームズ)東京」。文字通り「選手を真ん中に」、つまり一人一人を輝かせることを最重要視する。勝敗に加え、出場選手数に応じてポイントが加算される。リーグ戦なら各チームが成績にかかわらず平等に試合を経験できる。

 中桐代表は勝ちにこだわるチームの存在を否定しているわけではなく「すみ分け」を強調し、こう呼び掛ける。「小学生はエンジョイだけでもいい」。子どもが真ん中に。それだけを願う。

見守る親の役割は?「結果より成長を褒めて」 男子モーグル銅メダリスト・堀島行真さんに聞く

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北京冬季五輪の銅メダルを手にする堀島行真。「小さなステップでも褒めることが大事」と話す=東京都内で

 子どもがスポーツをするときに大切なことは。見守る親の役割とは。幼少期からスキーに没頭した、北京冬季五輪フリースタイルスキー男子モーグル銅メダリストの堀島行真(トヨタ自動車)に聞いた。(森合正範)

小さなステップを大事にして

 -子どもたちがスポーツをする上で大切なことは。

 「順序を追って練習することです。スポーツには階段のようなステップがいくつもあります。それを理解した上で、次はこれだなとやっていく。スキーならまずは道具をそろえる。次にスキー場に行く。その一歩一歩を大事にする。小さなことでも、何かをできるようになるって、とても楽しいと思うんですよ」

 -楽しむためにも「一歩ずつ」が重要だ、と。

 「スキー場に行けた、というだけで満足できる心を持つことも大事だし、2本滑れた、じゃあ明日は3本。『ハ』の字の滑りから、少し足を閉じられるようになったとか。スポーツに限らず、成長は楽しいし、自信が芽生えます」

 -幼少期から道具を大切にしていたと聞きました。

 「スキー板は高価です。小さい頃は3、4シーズン使わなきゃいけないとなると、1シーズンで傷だらけにしたくないし、板はさびる。だから、雑巾できれいに水を拭き取って、乾かす。部屋に持っていって乾燥させる。大したことではないですが、それをやるか、やらないか」

 -新しい技や新たなことに挑戦するとき、どんな気持ちで一歩を踏み出しますか。

 「一歩を踏み出すのは難しいですよね。なので最初に話したような、小さなステップでも自分を褒めること。スキー場に行けたくらいで自分を褒めるって、なんか恥ずかしい。でも、それが大事。小さなステップを踏めたら『よくやったな』と自分にご褒美の言葉をあげています。挑戦はその積み重ねですね」

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北京冬季五輪フリースタイルスキー男子モーグルの決勝で、コブを攻める堀島行真=張家口で(木戸佑撮影)

上達のコツは、褒めて励ます

 -自分自身に声を掛けることは多いですか。

 「はい。言葉を掛けることによって、その思考になります。例えば、休んでいる時、無駄な時間と思わずに、『休むのが大事』と言い聞かせると、心から休めるんです」

 -上達するコツは。

 「もちろん一歩一歩、楽しくが一番なんですが、スポーツにはいろんな動きがあります。歩く姿勢、立つ姿勢、座る姿勢といった、普段から姿勢を意識すると上達につながるのではないでしょうか」

 -見守っている家族にアドバイスは。

 「先ほどの続きですが、子どもの頃って、自分を褒めることはなかなかできない。でも、親が子どもを褒めることはできますよね。そこに行けただけでも褒める、一歩一歩を褒めて、励ましてあげる。ステップを踏めたこと、成長していることを子どもにきちんと感じさせることが大事。でも、褒めるにしても、ポイントがあるんです」

 -そのポイントとは。

 「小さなステップや過程を褒めることで、子どもは『結果だけじゃないんだな』と思える。成績しか褒められなくなると、子どもは結果主義、成績主義になっちゃいます。楽しめたことを褒める、他人と比べず、成長を褒める。成績以外のことで褒められればいいなと思います」

堀島行真(ほりしま・いくま)

 1歳半からスキー板に乗り、5歳の頃にはコブのある斜面を滑った。フリースタイルスキー男子モーグルのワールドカップ(W杯)で日本歴代最多の通算11勝。岐阜第一高、中京大出。24歳。岐阜県出身。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年5月5日

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