子どもの付き添い入院の環境改善へ 「#みんなで小児病棟を支えよう」 NPOが6月16日までクラウドファンディング

河野紀子 (2024年5月29日付 東京新聞朝刊)

 入院中の子どもに付き添う家族に、食事などを支援する認定NPO法人キープ・ママ・スマイリング(東京)が、設立から10年を迎えた。理事長の光原ゆきさん(50)は「十分な食事や睡眠が取れずに体調を崩す人は多い。付き添う家族の笑顔を守るため、社会全体で支えてほしい」。こうした「付き添い入院」の環境改善に取り組む医療機関を支援するため、6月中旬までクラウドファンディングで寄付を募っている。

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コロナ禍を機に始めた「付き添い生活応援パック」。医療機関での生活に必要な物が詰まっている(キープ・ママ・スマイリング提供)

食事は病院の売店、夜は簡易ベッド

 活動の原点は、光原さん自身の過酷な付き添い経験だ。2009年に長女、2013年に次女を出産。ともに先天性疾患があり、長女は生後6カ月まで入院した。次女はさらに長期となり、産後の体調が万全ではない中で光原さんは、泊まり込んで24時間付きっきりで世話した。

 食事は病院の売店で買い、夜も看護師の巡回があって簡易ベッドでは熟睡できない。疲れがたまり、高熱で1週間寝込んだことも。「当時は娘が最優先だった。過酷な環境でも、親も頑張るのが当たり前だと思っていた」と振り返る。

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付き添い入院していた2010年、病室のベッドの上で娘にミルクをあげる光原ゆきさん=東京都内で(キープ・ママ・スマイリング提供)

 次女は順調に成長していたが、11カ月で体調が急変して入院したまま亡くなった。「大きな喪失感で、どう生きていけばいいか分からなくなった。長女がいなければ、立ち直れなかったかもしれない」と明かす。

 家族や友人の励ましに助けられ、少しずつ前を向いた。「この経験を生かして誰かの役に立ちたい。それが、次女の生きた証しになる」。亡くなった2014年の11月、団体をつくった。

まずは野菜たっぷりの料理を提供

 娘2人の入院と転院で光原さんは、大学病院やこども病院など全国6カ所で付き添いを経験。家族にも温かい食事を提供する施設や、保育士がいてシャワーなどの際に一時預かってくれるところもあった。「それぞれの良い点を取り入れれば、付き添い環境の改善につながる」。まずは体調に直結する食事支援に力を入れ、不足しがちな野菜たっぷりの手作りの料理の提供を始めた。月1回、東京都内を中心に小児病棟や患者・家族用のファミリーハウスで配っている。

 ただ、コロナ禍で付き添う環境は厳しさを増した。病棟に入れなくなり、食事支援は弁当に切り替えた。

 付き添う家族は交代や外出が制限され、食事や日用品の買い出しができない状況に。企業に協力を呼びかけ、必要な物資をまとめた「付き添い生活応援パック」の無償配布を開始。レトルト食品やマスクといった衛生品、化粧品や栄養ドリンクなどを箱いっぱいに詰めた。「たくさんの人が応援していて、一人じゃないよと伝えたい」と、企業の応援メッセージも同封。これまでに7000個以上を届けた。

家族の声が国を動かしたが、課題も

 付き添い中は、見守りのほか、食事や入浴の介助、服薬など看護ケアを担うことがある。そもそもは医療従事者の仕事だが、人手不足のため、病院が付き添う家族に求めざるを得ないのが現状だ。

 キープ・ママ・スマイリングは昨年6月、付き添い経験者を対象にした全国初の大規模調査の結果を公表。3643件の回答があり、夜間も医療的ケアを担ったり、5割が体調を崩したりといった過酷な実態が明らかになった。国に改善を要望し、その後に設置された検討会では、光原さんが当事者代表として意見を伝えた。今年6月の診療報酬改定では、付き添い環境を改善した医療機関に加算が付くようになった。

 家族の声が国を動かした形で、光原さんは「大きな一歩」と評価する。ただ、食事や睡眠環境の改善にかかる費用を診療報酬から工面するのは難しく、課題は残ったままだ。そもそも小児医療は、他の診療科に比べ採算性が低く、経営難にあえぐ医療機関も。「社会全体で小児病棟を支える必要がある」と、クラウドファンディングの実施を決めた。

 集めた資金は医療機関の付き添い支援に充ててもらう。食や睡眠など3コースあり、レトルト食品や安眠マットレスなど1施設あたり30万円分を贈る。金額は1口3900~30万円。目標額は300万円で、期間は6月16日(父の日)の午後11時まで。

 クラウドファンディングは「READYFOR」のWebサイトで実施。問い合わせはキープ・ママ・スマイリング=電話03(6822)5371(平日の午前10時~午後5時)で受け付けている。

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  • np_kei says:

    次女の友人も彼女の娘が生後6ヶ月に脳腫瘍が見つかり、付き添い入院を一年以上余儀なくされました。

    食事は売店かコンビニ、外食も入浴もままならず、母としての使命感すら感じました。次女の結婚式でお会いしたくらいで、面識もありませんでしたが、少しでも手作りの食事を食べてもらいたくて、その後退院されるまで、数回、病院に届けました。

    キープ・ママ・スマイリングも利用されたようですが、医療機関が行政をあげて支援していく制度が必要だと思います。

    現在、自宅で過ごしているようですが、ママは今になって体調がすぐれない日が続いているようです。

    np_kei 女性 60代

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